手料理で「再スタート」=生活再建図るガザ住民―戦火逃れエジプトへ
【カイロ時事】イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザからエジプトに逃れた避難民は11万人以上に上るとされる。そのうちの一人で、カイロ郊外のアパートに家族7人で暮らす女性オム・マフムードさん(59)は生活再建を図ろうと、手作りの家庭料理のオンライン販売を始めた。「これから再スタートだ」と前を見据えている。
オム・マフムードさんが宅配するのは、ガザで家族が集まる特別な行事で振る舞われる炊き込みご飯「マクルーバ」や、食卓に欠かせないスパイス「ザアタル」など。ガザ文化をエジプトに紹介できることに喜びを感じている。
昨年12月にエジプトに来て以来、預金を切り崩し、知人から借金して命をつないできた。一緒に暮らす息子の職はまだ見つからない。ガザ退避から約半年となる5月末、「何とかしなければ」と一念発起した。
売り上げは、1カ月7000エジプト・ポンド(約2万3000円)程度。家賃は月2万エジプト・ポンド(約6万6000円)で、暮らしを立てるには不十分だが、苦しい家計の一助となっている。「足りない調理器具を少しずつ充実させたい」と事業拡大に思いをはせる。
オム・マフムードさんは、ガザ南部ハンユニスで、大学教授だった夫の退職金で建てた家に一家で暮らしていた。庭も車もあり、「いい生活だった」と振り返る。
しかし、昨年10月のイスラエルとハマスの衝突で生活は一変した。自宅周辺でも爆撃が始まり、ガザ最南部ラファの親戚宅に退避したが、戦火から逃れることはできなかった。「もう出よう」。戦況悪化を見越した息子が脱出を提案した。
ガザからエジプトへの退避は、外国旅券保持者か治療が必要な人が原則。だが、「抜け道」を提供するブローカーに家族7人分で1万ドル(約160万円)以上を払って故郷を離れた。「ガザで死ぬか、全てを失っても逃げるかの選択は簡単ではない」。エジプト側に渡った瞬間、ほっとすると同時に不安が襲ってきたという。
「家を出たときは、すぐに戻れると思っていた」というが、ガザを去ってから家は空爆でがれきと化した。ショックで夫はうつ病に。ガザに帰りたいという思いはあるが、もう帰る場所はない。「仕事とは、生活するということ。それは希望だ。働くことで自尊心を保てる」。オム・マフムードさんの心を支えているのは、アパートの狭い台所を使い、ミキサーなどは近所の食堂で借りて作る故郷の素朴な「ソウルフード」だ。
[時事通信社]
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