ミサイル攻撃翌朝も練習=伝統守るため「舞台で闘う」―ウクライナ国立バレエの寺田芸術監督
【キーウ時事】19世紀創立の名門「ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)」が、ロシアの侵攻に伴う戦火の下で懸命に活動を続けている。首都キーウ(キエフ)は8日、大規模なミサイル攻撃に見舞われたが、団員は翌朝もレッスンを続けた。芸術監督の寺田宜弘さん(48)は時事通信の取材に、ウクライナバレエの伝統を守るため「舞台の上で闘う」と決意を語った。
寺田さんは2022年12月に芸術監督に就任。引き受けたのはある出来事があったからだという。ロシアの攻撃で空襲警報が鳴り、キーウのオペラ劇場で行われていた子供の民族舞踊が中断。「再開した時の子供たちの目は輝いていた。7歳か8歳の子供たちが、空襲警報が鳴っても自分たちの国の文化や伝統を守っているのを見て、怖がっている場合じゃない」と決心した。
戦闘激化で一時は約80人に減った団員は、110人にまで戻った。団員には「バレエを続け、次の世代に引き継ぐ責任がある」(プリンシパルのナタリア・マツァークさん)との自負がある。寺田さんは「ウクライナの芸術が戦争の中でも生き、舞台の上で闘っていると世界中に知ってもらうことが、団員と私の一番の役目だ」と力を込める。
8日のミサイル攻撃はウクライナ全土が標的となり、キーウでは小児病院を直撃し犠牲者が出た。それでも「団員たちはウクライナの文化を守ることを第一に考えている。攻撃の翌朝10時には、みんなレッスンに来ていた」と寺田さんは明かす。「劇場にミサイルが当たるかも」という不安は消えないが、「ダンサーにとって、舞台で踊っている間は別世界に入れる」。恐怖心はない。
侵攻後、チャイコフスキーなどロシア作曲家の曲を使った演目は上演しなくなった。「芸術と政治を一緒にしてはいけない」と理解しているが、団員の気持ちを考えると「今はロシア文化に関わらない方がいい」と判断。欧州や米国、アジア、日本の文化を融合した、新しいバレエのスタイルを目指すチャンスだと受け止めている。
来年1月には来日公演を予定。ロマンチックバレエの傑作として高い人気を誇る「ジゼル」の新作を「日本のファンのために上演する」と意気込んでいる。
[時事通信社]
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