13年の「恩返し」誓う=福島帰還のサッカーエリート―大震災で静岡移転・パリ五輪
パリ五輪サッカー日本代表には、今春、13年ぶりに福島県での活動を全面再開した「JFAアカデミー福島」出身選手が、バックアップメンバーを含め8人選ばれた。東日本大震災で拠点を移していた静岡県での練習を支えた「時之栖」(同県御殿場市)社長の庄司政史さん(59)は「巣立った選手が出場するのはうれしい」とほほ笑む。
JFAアカデミー福島は中高生を対象にした日本サッカー協会のエリート選手養成機関。2006年に開校し、福島県の施設「Jヴィレッジ」を拠点に、U17ワールドカップなどに出場する若手を育てていたが、11年3月11日、大震災に見舞われ、移転を余儀なくされた。
時之栖に協会からアカデミー生125人の受け入れの打診があったのは、大地震の約1週間後。総合レジャー施設を運営する同社はサッカー場を複数所有し、日本代表も合宿先として利用するなど、協会と交流があった。
「受け入れよう」。庄司さんによると、当時の社長は、他人の苦しみや困難を見て、自然と心が痛む感情を指す言葉「惻隠(そくいん)の情」を口にし、即決した。
当時専務だった庄司さんは地元自治体や協会などと調整を重ね、衣食住の確保や学校の編入手続きなどをフォロー。アカデミー生は同年3月末に静岡県に移ってきたが、中学の入学式には、学校OBが制服やかばんを用立てて間に合わせたという。「安心して住んでもらいたい一心だった」と庄司さんは振り返る。
時之栖の施設は主に、男子寮や練習場所として使用された。アカデミー入校式や卒校式の会場にもなり、受け入れから約13年間で二百数十人のアカデミー生が青春を過ごした。
パリ五輪に出場するなでしこジャパンの北川ひかる選手(27)はアカデミー5期生で、時之栖のグラウンドで練習した一人。静岡県で成人式に出席したといい、「お世話になった場所。(パリでは)恩返しできるようなプレーをしたい」と意気込む。
庄司さんは「アカデミーが福島に戻ったことには、正直寂しさもある。だが、ここにいた選手はわれわれにとって仲間。パリでも活躍してほしい」とエールを送った。
[時事通信社]
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