45年後の真実、訴訟に道=初提訴原告の義姉「妹守らねば」―強制不妊
強制不妊手術を巡る訴訟への道を開いたのは、全国で初めて提訴した宮城県の原告佐藤由美さん(仮名、60代)の義理の姉、佐藤路子さん(同)だった。15歳で手術された由美さんの優生手術台帳から、ずさんな診断に基づいた手術だったことが判明。「そんなに障害者が邪魔だったのか」。国への怒りや由美さんを守らねばとの思いから、裁判に立ち上がった。
手術から約45年後の2017年2月、路子さんは不妊手術の証拠がないため訴訟を起こせずにいた同県の飯塚淳子さん(仮名、70代)が日弁連に人権救済申し立てをしたという報道を見た。弁護士事務所に電話し、翌月には飯塚さんらと面会を果たした。
由美さんが不妊手術をされた理由が分からなかったため、路子さんが県に情報開示請求したところ、全国で初めて優生手術台帳が開示され、理由は「遺伝性精神薄弱」と記されていた。しかし由美さんの障害は1歳のときに口蓋裂を手術した際の麻酔の影響によるもので、「遺伝性」とされたことに強い疑念を持った。
「どういう考えで15歳の中学生に不妊手術をしたのか」。怒りや悔しさがこみ上げた。約40年同居した由美さんは「お姉さん、お姉さん」と懐いてくれる実の妹のような存在。「私が守らなければ」。国との闘いを決意した。
厚生労働省の担当者と面会を重ねたが、当時は適法だったため謝罪も補償もしないと言われ、18年1月、由美さんは全国初の提訴に踏み切った。これを皮切りに飯塚さんも同5月に訴えを起こし、訴訟の動きは全国に広がっていった。
しかし一審仙台地裁、二審仙台高裁は、旧優生保護法を違憲としつつ、不法行為から20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」を適用し、由美さんと飯塚さんの訴えを退けた。
一方、宮城県の別の原告については一、二審とも国に賠償が命じられた。路子さんは「これが妹と飯塚さんの判決だったら」と悔し涙を流したが、飯塚さんから「泣かないで。頑張ろうね」と手を握ってもらった。「私よりももっと悔しくて泣きたいはずなのに」
実質勝訴となった今回の最高裁判決を受け、路子さんは飯塚さんと笑顔で「良かったね」と言葉を交わし、「これで終わりじゃない。みんなも良くならないと」と前を向いた。
[時事通信社]
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