2024-07-03 19:08社会

強制不妊、国に賠償責任=除斥適用せず、原告全面勝訴―旧優生保護法は違憲・最高裁大法廷

全国の強制不妊訴訟一覧
全国の強制不妊訴訟一覧

 旧優生保護法に基づき、障害などを理由に不妊手術を強制されたとして、全国の男女が国に損害賠償を求めた5件の訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)は3日、同法の規定を違憲とし、国の賠償責任を認めた。不法行為から20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」の適用については「著しく正義・公平の理念に反し、到底容認できない」とし、実質的な原告全面勝訴とした。
 5件のうち、二審で原告が勝訴した4件で国の上告を棄却し、判決を確定。訴えを退けた仙台高裁判決については破棄して審理を同高裁に差し戻した。裁判官15人全員一致の判断。
 全国で起こされた同種訴訟への波及は必至で、国策による人権侵害の責任を改めて問う判決となった。被害者への一時金支給を定めた救済法は責任の主体が不明確で、金額の少なさなどにも批判があり、改正を求める声が高まる可能性もある。岸田文雄首相は3日、原告らと月内に面会する意向を示し、「反省とおわびの言葉を直接伝えたい」と述べた。
 最高裁が法律について違憲と判断したのは戦後13例目。
 大法廷は判決で、強制不妊手術を可能とした旧優生保護法の規定が人格の尊重の精神に著しく反し、差別的だとして、憲法13条、同14条1項に違反すると指摘。国会による同法の立法行為についても、「憲法で保障されている国民の権利を侵害することは明白だ」として、初めて国家賠償法上違法と判断した。
 除斥期間に関しては「請求権の消滅が著しく正義・公平の理念に反し、到底容認できない場合は、除斥期間の主張は許されない」との解釈を示し、判例を変更。その上で、国の主張は信義則違反、権利乱用に当たるとして除斥期間を適用しなかった。
 5件の訴訟は札幌、仙台、東京、大阪、神戸の各地裁に起こされた。一審はいずれも除斥期間を適用し、原告の請求を棄却。二審はいずれも旧法を違憲とした上で、札幌、東京、大阪の3高裁4件が除斥期間の適用を制限して国に賠償を命じた一方、仙台高裁は訴えを退けていた。 
 
 ◇判決骨子
 一、旧優生保護法の規定は立法目的が正当と言えず、個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反しており、憲法13条に違反する
 一、特定の障害者らを同法の規定による不妊手術の対象者と定め、それ以外の者と区別することは合理的根拠に基づかない差別的取り扱いに当たり、憲法14条1項に違反する
 一、国が「除斥期間」の主張をすることは信義則に反し、権利の乱用として許されない
 一、訴えが除斥期間経過後に起こされたことをもって国が賠償責任を免れることは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認できない
 
 ◇旧優生保護法を巡る動き
1948年 9月 旧優生保護法施行
  96年 6月 優生条項を撤廃した母体保護法として改正。同年9月施行
  98年11月 国連自由権規約委員会が被害者補償などを日本政府に勧告
2016年 3月 国連女性差別撤廃委員会が日本政府に同様の勧告
  17年 2月 日弁連が被害者補償などを求める意見書を国に提出
  18年 1月 宮城県の女性が初めて国家賠償を求めて提訴
      3月 救済策を検討する超党派議連と与党作業部会が発足
  19年 4月 救済法が成立
      5月 仙台、東京、大阪、札幌、神戸の各地裁が「除斥期間」を適用し、国の賠償を認めず(~21年8月)
  22年 2月 大阪高裁が除斥期間適用を制限し、初めて国に賠償命令
      3月 東京高裁が賠償命令
  23年 3月 札幌高裁と大阪高裁が賠償命令
      6月 仙台高裁、除斥期間を適用し賠償を認めず
  24年 7月 最高裁大法廷、除斥期間を適用せず国の賠償責任認める

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