歴史的資料、被災家屋から救出=「文化財レスキュー」始動―散逸防ぎ「復興につなげる」・能登地震
能登半島地震の被災地では、地域の歴史を語る貴重な資料などが散逸しないよう、被災家屋から運び出して保管する「文化財レスキュー」という取り組みが始まっている。活動には石川県や大学教授らのほか、文化庁所管の国立文化財機構文化財防災センターが参加。被災家屋の解体が本格化するのを前に、懸命な救出活動が行われている。
3月30日、石川県能登町の河合元一さん(82)宅の蔵で、町職員や博物館の学芸員ら約20人が古文書や掛け軸など100点以上を運び出した。蔵の壁や床には亀裂が入り、蔵につながる母屋の廊下もゆがむ中、取り出したものは緩衝材で包むなどして軽トラックに積み、町内の別の施設に移動させていた。
河合さんの長男兵衛さん(45)によると、母屋などは倒壊を免れたものの損傷が激しく、解体する予定という。兵衛さんは「家が壊れることと同じくらい古い資料がどうなるか心配していた。こうした取り組みがあると聞いてうれしかった」とほっとした様子だった。
河合さん一家は、加賀藩主前田家に仕えた武士の子孫に当たる。この日搬出された物の中には、「弘化4年(1847)」と書かれた漆器の入った箱や、同町出身で明治時代に青函連絡船船長として殉職した久田佐助氏の直筆資料などがあった。同町教育委員会の寺口学学芸員は「地域の歴史や文化が分かる資料として残す必要がある」と話す。
「文化財レスキュー」は、損壊した建物内の古文書や美術工芸品を対象に救出や一時保管を行う国の事業。能登半島地震での作業は、東日本大震災をきっかけに2020年に設立された同センターとしては初の大規模活動となる。石川県内では今月5日時点で約140件の依頼が寄せられているが、今後は被災家屋の公費解体が本格化するため、がれきとして廃棄される前にどれだけ救出できるかがカギとなる。
作業に参加した文化財防災センターの高妻洋成センター長は「未指定の文化財だったとしても、生活の中で大事にしていたものが地域の歴史や文化のベースとなっている」と強調。「各家庭で大事にしているものを救出し、能登の復興につなげていきたい」と語った。
[時事通信社]
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