「幻の貝」養殖を省力化、広田湾の発明家の挑戦続く=震災で被害、担い手不足も―岩手・陸前高田
東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市の広田湾に若き発明家がいる。同市の製造業村上祐哉さん(32)。人力に頼ることが多い養殖作業を省力化する機械を生み出し、いずれは家業であるイシカゲ貝などの養殖を継ごうとの思いを胸に、新たな機械開発に向け挑戦を続ける。
イシカゲ貝は広田湾が国内で唯一の養殖場で、「幻の貝」と呼ばれる。しかし、事業化に成功した中で震災が発生し、全ての養殖施設と貝が津波で流失。村上さんの家も、家業が壊滅的な被害を受け、「もう終わったと思った」。養殖事業はその後、生産者らの尽力で復興を果たすが、現在は人口減少や高齢化で担い手不足が深刻化している。
イシカゲ貝の養殖で特に負担が大きいのは、養殖に使う容器に人力で砂を詰める作業だ。村上さんはある日、砂詰めの機械ができたとのニュースを見た。しかし、漁師らに聞くと実用的でないという。高齢化が進む中、最も過酷な砂詰め作業を機械化できれば売れるかもしれない。「これで勝負しよう」と決心した。
当時、自ら立ち上げた家具製造の事業に行き詰まっていた。結局、砂詰め機械の開発には4年かかり、費用は全て自腹。親に反対され、弟に借金したことも。それでも続けられたのは、若者の挑戦を応援してくれる人がいたからだ。「諦められない原動力だった」と話す。
機械は2019年に完成し、市内の生産者らに計7台を納品した。今まで5~8人でやっていた作業が2~3人で可能になったといい、生産者にも喜んでもらえた。「勉強もしてこなかったし、怒られてきた人生。初めて褒められた」
現在は、カキの貝殻を洗浄する不純物除去機を開発中だ。今までで一番難しいが、「今の世の中、できないことはほとんどない」との専門学校時代の恩師の言葉が挑戦を後押しする。
担い手減少など山積する課題。将来への危機感は消えないが、「生産力をプラスにするには機械しかない。機械を入れて都会以上に稼げるようにしたい」と意気込む。
[時事通信社]
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