「葛藤する自分責めないで」=諦めかけた住職、寺の再建模索―能登地震で「街終わった」・輪島
能登半島地震で人々の生活やなりわいは深刻な被害を受けた。地元を離れる住民もいる中、石川県輪島市の「鳳来山(ほうらいざん)永福寺」住職、市堀孝宗さん(34)は「葛藤する自分を責めないで」と言う。自身も「輪島は終わった」「寺は必要なのか」と一度は諦めかけた。地域の一人ひとりに思いをはせつつ、寺の再興を模索する。
永福寺は、観光名所「朝市通り」から数百メートル離れた丘の麓にある。元日は寺の隣にある自宅で年賀状を見ていたところ地震に見舞われた。2回目の大きな揺れで周囲の家屋が次々と倒壊。崖も崩落し、近くの神社の社務所が下敷きになった。「津波が来るぞ」。102歳の祖母を手押し車に乗せ、夢中で高台を目指し、約100段の階段をおぶって登った。
朝市で炎が広がる様子が見え、爆発音も響いた。夜が更けても空は赤々と燃えさかる炎に照らされた。街を自転車で回り、倒壊したビルや亀裂の入った道路も目にした。「もう輪島は終わった。大切なものが損なわれた」と感じた。
翌朝、寺の様子を見にいくと、本堂は基礎部分がずれ、仏像はひっくり返っていた。
車中泊などで1週間しのいだが、この間寺を訪れる人はなく、「誰にも必要とされていないのか」と思った。別の寺で住職を務める先代の父玉宗さん(68)を訪ね、「再建は難しい」と伝えた。
しかし、惨状を知った人々から励ましや寄付が届くように。「寺を大切に思う人が一人でもいる限り、応えたい」という思いが湧き、「住職としての意地」も出てきた。
修復費用は約1億円。再興の青写真を父から委ねられた。「現実にできるのか。10年、20年先になるかもしれない。時間をかけて決断していかなければ」と語る。
「被災した人はきっと同じように葛藤しているはず」と孝宗さん。地元にとどまる人もいれば、能登を離れる決断をした人もいる。「誰も正解は分からない。葛藤する自分を責めず、新たな一歩を踏み出す原動力にしてほしい」と話した。
[時事通信社]
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