「再スタートのきっかけに」=被災老舗の日本酒造り支援―大震災乗り越えた醸造会社・宮城
能登半島地震で被害を受けた石川県能登町の酒蔵を支援しようと、宮城県大崎市の醸造会社「新沢醸造店」が、蔵に残っていたもろみを引き受けて日本酒の製品化を代行した。「再スタートするきっかけになれば」。東日本大震災から立ち直った経験から、同業者としてできることをと後押しした。
新沢醸造店が支援したのは能登町の老舗、数馬酒造。津波に襲われた蔵から回収したもろみ1トンを1月中旬、トラックで600キロ以上離れた宮城県川崎町にある自社の酒蔵まで運び、搾って手持ちの一升瓶約350本に詰めた。「最高の品質」。支援を申し出た新沢巌夫社長(48)は4日、能登の人気銘柄「竹葉」が積まれたケースを前に笑顔を見せた。
被災した数馬嘉一郎社長(37)とは昨年7月、ロンドンで開かれた世界最大規模のワイン品評会の授賞式で知り合った。お互いに日本酒部門で受賞し「またロンドンで会おうと話していた」という。
そんな「いいライバル」を地震が襲った。津波で仕込み蔵の一部に泥水が入り、貯蔵棟の壁には亀裂が走った。酒造りの最盛期を目前に、断水の影響で作業に取り組めなくなった。
数馬社長と連絡を取った新沢社長は、1月13日に救援物資を携えて駆け付けた。自身も13年前の東日本大震災で酒蔵が全壊し、新たな蔵を探すところから始めた。「命の次にはお酒のことを考えているはず」。数馬酒造の蔵にもろみが残っているのを確認すると、製品化の代行を申し出た。
完成した日本酒は2月5日、無事に能登町へ到着。試飲した数馬社長は「一度は諦めかけたもろみが無事に仕上がった」と感無量な様子だった。
実際の販売についてはまだ検討中という。数馬社長は「断水が解消されれば自社でできることを増やしたい」と前を見据え、新沢社長も「微力だが、できることをしていきたい」と力を込めた。
[時事通信社]
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