2023-12-04 16:40World eye

ウクライナ軍のドニエプル川渡河、なお突破口にならず 専門家

【パリAFP=時事】ウクライナ軍は最近、ロシアが占領する南部ヘルソン州のドニエプル川東岸に進軍した。数か月に及ぶ反攻の末に収めた戦果ではあるが、専門家は、強力な突破口には依然、なり得ないのではないかとみている。≪写真は、ウクライナ・へルソン州のドニエプル川岸の拠点で警戒に当たる同国兵≫
 ウクライナ、ロシア両国は11月半ば、ウクライナ軍がドニエプル川東岸に拠点を確保したと発表した。ウクライナ軍は、ロシアの部隊を川岸から「3~8キロ」押し戻したとしている。
 6月の反転攻勢開始から半年近くにわたってウクライナ軍は漸進してきたが、今回は小型高速艇でドニエプル川を渡り、重要な成功を収めた。
 リトアニアに拠点を置くロシア軍ウオッチャーのマイケル・ナキ氏は、「ウクライナとしては、ドニエプル川東岸からさらに攻勢に出て、(ロシアが2014年に併合した)クリミア半島を目指すことが大きな課題となる」と語った。ただ、「今後の戦況は両国がどのような決定を下すか次第であり、展開の予測は困難だ」とも話した。
 ナキ氏は、ウクライナ軍は「東岸にかなりの橋頭堡(ほ)を築いた」とした上で、それをさらに拡大しようと試みているとの見方を示した。
 ■小さな勝利
 ロシア側が任命したへルソン州のウラジーミル・サリド知事は、東岸の小村クリンキー郊外で数十人から成るウクライナ軍部隊が拠点を構築したと語った。ただ、ウクライナ軍の支配地はなお狭すぎるとみる専門家が多い。
 元フランス陸軍大佐で軍事史家のミシェル・ゴヤ氏は、ウクライナの作戦は「どちらかと言えば限定的で象徴的なものにとどまっている」との認識を示した。とはいえ、「ウクライナによる主軸の攻勢が失敗した後の小さな戦果とは言えるだろう」とも指摘した。
 仏軍および諜報(ちょうほう)機関の関係筋によれば、ロシア軍はクリンキー村を重視しておらず、東部ドネツク州の最前線に位置する都市アウディーウカに注力している。ウクライナ総合参謀本部によると、ロシア軍は数週間にわたって同地の包囲を試みてきた。
 ロシアの独立系軍事専門家アレクサンドル・フラムチヒン氏は、ウクライナ軍の東岸進出は「極めて小さな成果」にとどまり、装備を増強するには不十分だと分析。「装備なしには攻勢に打って出られない」と述べた。
 ■「補給路の遮断」
 軍事アナリストは、現在の拠点構築を防衛線突破の足掛かりとするためには、ウクライナ軍はドニエプル川を渡り、湿地帯を進んでより多くの部隊を展開する必要があるとみている。
 前出のナキ氏は、ウクライナ軍が直ちに着手しなければならないのは「ロシアの補給路を断つ」ことだとした上で、「ウクライナ軍は徐々に橋頭堡を拡大しており、実行可能だ」と語った。
 昨年11月にロシア軍がドニエプル川西岸から撤兵した後、ウクライナ、ロシア両軍は1年以上にわたって両岸で対峙(たいじ)してきた。
 ゴヤ氏は、ウクライナ軍の作戦により、「圧迫を受け続けているロシアは予備部隊の一部をドニエプル川周辺に振り向けざるを得ず、他の戦線に悪影響を及ぼしている」と解説した。
 一方で、ウクライナ軍がクリミア半島への直接ルートを開くためには、東岸に数千人規模の兵と大型車両を展開する必要があると、アナリストはみている。
 ウクライナのアナリスト、ミコラ・ビラスコフ氏は、「ウクライナ軍にとって装備と物資を運搬するための橋は不可欠だ。仮設橋では、ロシアの空軍力や地上火力に対しての防御態勢は不十分だ」と指摘した。(原文公開は11月21日)【翻訳編集AFPBBNews】

最新動画

最新ニュース

写真特集