手負いの早田、信じた武器=苦境救った原点フォア―卓球〔五輪〕
申裕斌の打球がネットに掛かると、早田は両手で顔を覆ってへたり込んだ。すぐには立ち上がれずに泣きじゃくる。「よく頑張った」。優しい視線を向けたのは、自身を日本のエースに導いた左手だった。
左腕に施されたテーピングは、前日よりも増えていた。炎症の痛みで一人では入浴もできないほど。準決勝後は7時間ほどかけて治療に努めたが、限界は近かった。「何かが悪かったから、神様に意地悪をされたのかな」と恨めしく思えた。
バックハンドを打つ際には特に痛む。リストを利かせる得意のチキータは使えず、何とか合わせるだけの返球でしのいだ。ポイントを重ねる手段は、己の原点ともいえるフォアハンドドライブしかなかった。
台上技術も含めて幅広い引き出しのある早田だが、卓球を始めた頃からフォアの強打を重点的に鍛えてきた。生まれつきの長いリーチから繰り出す強烈な回転は、他の選手にはない武器。これを磨き上げることが世界への近道だった。「神様は、この大事なフォアハンドドライブだけは残しておいてくれた」と感謝した。
そして、もう一つ。この日も貫いた「諦めずにやる」という姿勢は昔から変わらない。早田は自分を「天才ではない。全てのことが、努力しないと身につかないタイプ」と表現する。だからこそ寸暇を惜しんで練習に打ち込んできたし、「時間がない」と口癖のように言ってきた。
どれだけ申裕斌に粘られても、痛みをこらえてフォアを打ち続けた。そうして味わった歓喜。早田の卓球人生が凝縮されたような銅メダルだった。 (時事)
[時事通信社]
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