最低賃金上げ、地方創生切り札に=政府、「1500円」前のめり―ペース加速で地域経済混乱も
政府が最低賃金の引き上げに躍起だ。石破茂首相は2024年9月の自民党総裁選で、「20年代に全国平均で時給1500円を目指す」とぶち上げ、「30年代半ばまで」としてきた政府目標を大幅に前倒ししてみせた。政権の看板政策「地方創生2.0」の柱にも据えるが、急ぎ過ぎれば中小企業の経営悪化という副作用で地域経済に混乱を引き起こしかねない。
24年度の最低賃金の全国平均は、前年度から51円(5.1%)増の時給1055円。大企業を中心に33年ぶりの高い賃上げ率を記録した24年春闘や物価高を踏まえ、引き上げ額は過去最大となった。ただ「20年代に1500円」の達成には、これを上回る毎年7%以上の伸びが必要だ。
政府が最低賃金の引き上げにこだわるのは、賃金格差が地方から都市部への人材流出の一因とみているためだ。最も高い東京都と最も低い秋田県の差は212円に及ぶ。24年12月にまとめた地方創生2.0の「基本的な考え方」は、「若者・女性にも選ばれる地方」に向け、最低賃金引き上げや地域間の賃金格差是正などを有効な手段に挙げた。
最低賃金引き上げによる地域間の人材獲得競争は既に始まっている。徳島県の24年度の上げ幅は全国最大の84円。23年度にワースト2位だった順位は上から27位に浮上した。ただ、最低賃金は全企業に適用され、引き上げは中小・零細企業の経営に影響が大きい。同県は一時金の支給で中小を支援するが、政府関係者は収益力強化につながらなければ「焼け石に水」と話した。
中小の持続的賃上げには人件費上昇分の価格転嫁も必要だ。公正取引委員会の24年12月の調査では改善は見られたが、1次下請け、2次下請けと川下に行くほど転嫁率は下がり、3次では49.2%しか転嫁できていない。東京商工リサーチの調査(5277社が回答)では48.4%が、20年代に最低賃金を1500円に引き上げるのは「不可能」と回答した。
政府は24年11月の規制改革推進会議で、最低賃金決定プロセスの見直しにも言及。現在は労使の代表や学者で構成する審議会が、労働者の生活費や企業の支払い能力などを踏まえつつ、合意の下で決めているが、既存プロセスでは目標に到達し得ないという危機感が背景にあるとみられる。
こうした政府の動きを、日本商工会議所は「中小企業の支払い能力の実態を十分踏まえて検討してほしい」と警戒する。首相は労働界や経済界の代表を交えた「政労使会議」で、今年春までに目標達成のための具体策をまとめるよう指示したが、着地点を見いだすのは簡単ではなさそうだ。
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