2024-12-27 20:28World eye

生還した「囚人番号3006」 アサド政権下の拘束語る

【サルマダ(シリア)AFP=時事】シリア人のガジ・モハメド・モハメドさん(39)を拘束した軍の情報将校たちは、身分証明書を取り上げ、本名や素性は忘れろと命じた──「今からお前は3006番だ」≪写真は、シリア北部イドリブ県サルマダの自宅で、母親と並ぶガジ・モハメド・モハメドさん≫
 モハメドさんはそれから5か月半にわたって、アサド政権下の刑務所に収監された。処刑の恐怖に常にさらされ、体重は40キロ減った。
 シリアでは12月に入り、イスラム主義組織タハリール・アルシャーム機構(HTS)が主導する旧反体制派が偏執的で残虐なアサド政権を打倒して以降、モハメドさんのような元受刑者の多くが証言を始めた。そこには過去数十年にわたってシリア国民を支配してきた絶望の深さがにじんでいる。
 シリア北西部アレッポ近郊の町サルマダにあるモハメドさんの自宅を訪れると、ストーブの前でクッションに寄りかかり、別人のように痩せたという体を支えていた。ひげを生やし、黒髪はきっちりと刈り上げていた。
 モハメドさんは、政治に関わったことはなく、兄弟と一緒に生計を立てている単なる商人だと話した。
 だが、短期出張先のダマスカスで捕らえられ、生き地獄に突き落とされることとなった。
 「すべての希望を失う瞬間がある」と言うモハメドさん。「最後のほうは、ただ死にたいと考えるようになり、処刑されることを待つようになっていた。苦しみから解放されると思うと、うれしいような気持ちにすらなっていた」
 モハメドさんを拘束したのは、アサド政権下で絶大な力を行使していた秘密警察だった。彼は両手を後ろ手に縛られ、友人の医師と一緒に連行された。
 なぜ拘束されたのかは分からなかった。ただ、今月8日にアサド大統領を電撃作戦で打倒した旧反体制派の拠点、北西部イドリブ県の出身だったということがその理由だったのではと考えている。
 手錠をかけられ、目隠しをされたモハメドさんは、各国大使館や国連(UN)事務所、治安当局の本部などがあるダマスカスの高級地区マッジにある拘置所へ連行された。その建物の奥深くで殴打の日々が始まった。
 ■手首からつるされた
 モハメドさんは数日間、独房の鉄格子に手首からつるされた。最初は床に足が届かない高さにつるされ、その後、足がようやく床に触れる高さにまで下げられた。殴打され、食べ物はほとんど何も与えられなかった。
 接触した人物は看守だけだった。
 「『兄が反乱軍に加わったことを告白しろ』と言われた」
 「正直に言うと、私は彼らが聞きたがっている通りに話した。本当は(反乱軍になどは加わっておらず)、ここサルマダで援助団体を運営している実業家以外の何者でもないが」
 拘置所では、自白を強要され、大切な人の前で拷問される女性や子どもたちの叫び声が聞こえたという。
 1か月ほどして、モハメドさんの身柄は軍の情報機関に引き渡された。ただの「番号」として扱うと言われたのはこの時だという。
 そこでは、幅1.2メートル、奥行き2メートル程度の独房に放り込まれた。横たわるのが精いっぱいの狭さで、房内には電気も水もなく、唯一の光源は頭上の天窓だった。
 トイレに行くときは看守たちに裸にされた。かがまされ、視線を床に向けたまま連れていかれた。
 彼らはモハメドさんを処刑すると脅し「お前はヒツジみたいに喉をかき切られるぞ。それとも逆さづりにされたいか?串刺しの方がいいか?」と罵倒し続けた。
 当然、外の状況は何も分からなかった。反体制派が北部からわずか11日間で進撃し、アサド政権軍が戦車や装備を放棄して逃走したことも知らなかった。
 ■「息子ではないよう」
 「ある夜、房から出され、廊下に並ばされた。囚人同士で縛り付けられ、14人の列が2列できた。互いの顔を見たのはこの時が初めてだった」
 「死ぬんだと思った」
 そのまま1時間ほど立たされ、適当な房に押し戻された。「具合が悪くてトイレに行きたいと叫んだが、誰も来なかった」
 「その後、ヘリコプターが着陸し、また離陸していく音が聞こえた。(今、思うと)看守たちを撤退させていたんだと思う」
 数時間後、反体制派によって監房のドアはこじ開けられ、モハメドさんたちは解放された。「戦闘員が目の前に現れた。夢かと思った」
 モハメドさんが語る間、母親のファティマ・アブド・アル・ガニーさん(75)は息子の方をずっと見続けていた。
 息子が逮捕されたとの連絡はなかったという。そのため、母親にとっては息子がただこつぜんと姿を消したということになってしまっていた。
 赤十字国際委員会(ICRC)によると、シリアで記録された失踪事例は3万5000件を超える。
 モハメドさんは家に戻ることができた。幸運だった。
 「けれど、息子は変わってしまった」と母親は言う。
 「彼を見ていると、まるで私の息子ではないような気がする」
 またモハメドさん本人は否定しているが、悪夢にもうなされているようだと話した。
 モハメドさん自身は、責任を取るべき人が「法の裁きを受けることを願っている」と述べ、「3人は特定できると確信している」と続けた。【翻訳編集AFPBBNews】

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