解けゆく「第三の極」ヒマラヤ=気候変動で災害頻発―北極の温暖化関係か・第3部「未来が見える場所」(7)〔66°33′N=北極が教えるみらい〕
地球上で最も標高が高い「世界の屋根」ヒマラヤ山脈。南極や北極に次ぐ膨大な量の氷を蓄え、「第三の極」とも呼ばれる。しかし近年、温暖化によって氷河が急速に解け、下流で暮らす人々の生活を脅かしている。専門家からは、遠く離れた北極での異変が一帯の気候変動に関係しているのではないかとの指摘も出ている。
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◇氷河崩落で大洪水
深い峡谷を縫うように、うなる濁流が下っていく。インド北部ヒマラヤ山中、標高約3200メートルに位置する聖地ガンゴトリ。大河ガンジスの源流に当たる川では、ヒンズー教の巡礼者が祈りをささげていた。
「生命の源」(地元住民)である川の水はインド最大級の氷河に端を発し、流域で暮らす約5億人の生活を支えてきた。その氷河に異変が起きている。「年に4~9メートルほど後退している」。氷河先端の様子を毎年観察してきた地元ガイドのアンクル・バイ・プラリさん(29)はそう話す。
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9月上旬、ガンゴトリから氷河に至る約20キロの登山道は閉鎖されていた。2カ月ほど前に洪水が起き、橋が幾つも流されたためという。プラリさんは「どこかで氷河の一部が川に崩落して起きたに違いない」と語る。ガンゴトリのあるウッタラカンド州では、雨期を中心に洪水や土砂崩れが多発。2021年には氷河が崩落し、下流にある水力発電所の作業員ら約200人が死亡する大洪水を引き起こした。
気温上昇による氷河融解で氷河湖は拡大を続け、決壊のリスクが高まっている。インド全土でも近年、50度を超す熱波や記録的豪雨といった異常気象や、それに伴う災害が頻発している。
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◇世界最高峰が「黒い岩に」
隣国ネパールでも気候変動の影響は深刻だ。世界最高峰エベレスト(8848メートル)のふもとにある東部ソルクンブ郡の自治体幹部は「氷河の融解で雪崩や洪水が増えている。ヒマラヤの美しさは徐々に薄れ、黒い岩に変わりつつある」と話す。山が氷雪を失ったことで、観光客数が減少しているという。
東部ラスワ郡の「世界一美しい谷」と称されるランタン谷近くで、野菜農家を営むギャルボ・ラマさん(40)は「季節外れの雪が野菜の生産に悪影響を及ぼしている」と嘆く。湧き水が尽き自生する植物が姿を消したことで、それを食べるヤクの飼育をやめる酪農家が増えていると語った。
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ネパールを昨年訪れた国連のグテレス事務総長は、同国が「30年余りで氷河の3分の1近くを失った」と述べ、温室効果ガスを多く排出する先進国に対策を求めた。ヒマラヤ山脈周辺国が参加する政府間組織「国際総合山岳開発センター」は昨年、現在のペースで排出が続けば、今世紀末までにヒマラヤ氷河の最大8割が消失すると警告する報告書をまとめた。
ヒマラヤの氷河消失や南アジアの気候変動は、温暖化がより速く進む北極と連動しているとの研究結果もある。インド南部ゴアにある国立極地海洋研究センターのタンバン・メロス所長は「北極の海氷減少は偏西風や気候システムを急激に変化させ、モンスーンや降水量に影響している可能性がある」と指摘。それによって周辺国の食料安全保障が脅かされていると危機感を示した。
[時事通信社]
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