「大雨がなければ」=地震後復旧、自宅に戻り犠牲―高齢女性、悔やむ遺族・石川県輪島市
石川県・能登半島を襲った記録的大雨では、1月の地震後、復旧が進んだとして避難先の介護施設から自宅に戻った高齢女性が、川の氾濫で自宅が浸水し死亡した。「大雨がなければ亡くなることはなかった」。発生から2週間が経過し、大雨による死者は9日時点で14人に上るが、この高齢女性は含まれていない。遺族は災害弔慰金の申請を通じて行政側に被害状況を申し出るとしている。
亡くなったのは輪島市の松井毬子さん(88)で、次女の介護士、橋下美佳さん(58)が約9年前から自宅で寝たきりの母を介護してきた。
気象庁が大雨特別警報を出した9月21日、橋下さんは母と愛犬とともに普段通りの朝を過ごしていた。一気に雨脚が強まり、2階の窓から外の様子をうかがうと、近くを流れる河原田川が氾濫していた。
あっという間に濁流が玄関に流れ込み、橋下さんは急いでベッドに横たわる母を2階に避難させようとしたが、畳が泥水で浮き上がってうまく歩けない。水位は急激に上昇したが、「置いて逃げるわけにはいかない」。衣服はぬれて重くなり、階段まで連れて行くのがやっと。3段目に母を座らせると、自身も水浸しになりながら、ひたすら助けを待った。
近所の男性が救助に駆け付け、2人がかりで母を2階に引き上げたが、腹部まで泥水に漬かった体は氷のように冷たく、唇はみるみる色を失っていった。近くの輪島病院に搬送したが体温は回復せず、翌22日午後6時ごろ、帰らぬ人となった。
母は、1月の地震で自宅が断水し、在宅介護が続けられなくなったため、金沢市の介護施設に避難していた。輪島市内のインフラ復旧が進み、介護サービスも再開された6月、連れ戻したばかりだった。
橋下さんは「母は孫思いの優しい人。孫に編み物や裁縫を教えてくれた」と振り返る。長年自身で介護を続けてきただけに「最期は家で穏やかに息を引き取らせたかった」と話し、「連れて帰って来て、ごめんね」と涙ぐんだ。
[時事通信社]
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