2024-08-20 16:04社会

故郷の記憶、絵地図で残す=元択捉島民2世の山下さん

絵地図を持つ山下孝子さん=17日、札幌市
絵地図を持つ山下孝子さん=17日、札幌市

 ロシアによるウクライナ侵攻の影響などで、北方四島交流事業が中断する中、島の記憶を残そうと絵地図を描き続けている元島民2世の語り部がいる。「せめて絵地図で故郷を思い出して」。山下孝子さん(61)=札幌市=は、高齢化する元島民らに絵地図を配っている。
 択捉島蘂取村出身の母鈴木咲子さん(85)=北海道根室市=が語り部で、自身もピアノ教室を開く傍ら活動を始めた山下さんが、絵地図を描き始めたのは2020年から。新型コロナウイルス流行の影響により四島交流事業が中断し「島に行けなくてつらい」という元島民の思いを聞いたことがきっかけだった。
 絵心には自信がなかったが、「恥ずかしいなんて言ってられない」。母やその幼なじみの証言を集め、当時の写真なども参考に村の風景を色鉛筆で描写。何度も書き直し、8カ月かけて仕上げた最初の絵地図を元島民に贈ると「村が返ってきた」と涙を流した人もいたといい、「もっと描いて」と懇願されたという。
 絵地図には、各家々に住民の名前を書き込み、動植物や生活の様子を色彩豊かに描写。「5月に去る流氷」「おやつがわりに食べたイタドリ」など当時の思い出も書き込んだ。23年までに完成した絵地図は、択捉島以外の3島それぞれの全景など計8枚に上り、元島民に贈ったり、自身や母の語り部活動で使用したりしている。
 四島交流事業は、コロナ禍後もウクライナ侵攻を巡る日ロ関係の悪化で中断しており、代替措置として22年に始まった「洋上慰霊」は今年で3年目となる。山下さんも母と共に9月に実施される回に参加予定という。
 択捉島には今も先祖の骨が眠っており、山下さんは「早く自由に島を訪問できるようになってほしい」と願う。 
[時事通信社]

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