腹くくり「妹の分まで」=阿部一二三、見せた兄の誇り―柔道〔五輪〕
試合後の礼をして頭を上げると、自身の連覇を祝福してくれる大観衆が目に映った。無観客開催だった2021年東京五輪から3年、柔道男子66キロ級の阿部一二三選手(26)=パーク24=は「これが本当の五輪なんだな」。心が震えた。
あらゆる事態を想定して試合に臨む王者にとっても、妹の詩選手が2回戦で敗れたのは想定外だった。ウオーミングアップ中に、妹が泣き崩れる映像を見ても表情は変えなかった。だが、内心は「泣きそうになった」。それでもすぐに「兄として絶対に妹の分までやり切る。泣くのは今じゃない」と腹をくくった。
自分も「五輪の魔物」に足をすくわれないよう気を引き締めた。準々決勝は鼻血が止まらなくなって焦る時間帯があり、準決勝では相手の足技に崩されそうになる場面もあった。それでも「自分の柔道をするだけ」と自身に言い聞かせてペースを乱さない。リマ(ブラジル)との決勝では先に技ありを奪い、焦って出てきた相手を袖釣り込み腰で仕留めた。
この3年間、妹と一緒に金メダリストとしての重圧を背負い続けてきた。互いに切磋琢磨(せっさたくま)する中で「やはり兄妹はいい。1人なら孤独を感じるが、妹という存在がいるだけで全然違う」。二人は多くを語らなくても思いは一つに、この日の舞台のために一緒に走ってきた。
勝利の余韻に浸る間もなく、4年後のロサンゼルス五輪を見据えて「まずは3連覇」と言い切った。「詩が負けて、また新しい目標ができた。もっともっと頑張らないといけない理由が増えた。兄妹でロスの金メダルを取りたい」。そこには試合で相手を射抜くような鋭い目つきも、近寄りがたい雰囲気もない。優しい「お兄ちゃん」の柔和な表情があった。 (時事)
[時事通信社]
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