日中、試練続く「戦略的互恵」=処理水・邦人拘束で成果見えず
【ソウル時事】岸田文雄首相は26日の中国の李強首相との初会談で、「戦略的互恵関係」を目指して対話を継続することを確認した。ただ、東京電力福島第1原発の処理水放出を受けた中国の日本産水産物輸入停止措置や、中国国内で相次ぐ邦人拘束など個別の懸案で目立った進展はなかったもよう。岸田首相は引き続き対中関係の安定を図る方針だが、本格的な改善の道筋は見えない。
「(戦略的互恵関係は)日中関係を大局的に捉える重要な視座だ」。会談の冒頭、岸田首相はこう強調。李首相は「平和共存、友好協力こそが中日関係の主旋律であり、両国人民の根本的利益に一番合致する」との認識を示した。
対立点を抱えつつも共通の利益拡大を目指すのが「戦略的互恵関係」。岸田首相は禁輸措置の即時撤廃や邦人の早期解放を求め、東・南シナ海情勢や新疆ウイグル自治区の人権状況に「深刻な懸念」を表明。同時に、「日中ハイレベル経済対話」の推進を呼び掛け、李首相と「正当な企業活動」の保障で一致した。
ただ、日中間には相互不信がくすぶる。
日本はウクライナ情勢や北朝鮮の核・ミサイル開発に関して中国に「責任ある行動」を期待するが、中国は軍事分野を含めてロシアとの連携を強化。最近のロ朝接近を受け、「北朝鮮に対する中国の影響力は弱まっている」(日本外務省関係者)との見方もある。
一方の中国側は、日本が台湾有事などを念頭に日米韓や日米比の枠組みで安全保障連携を強めていることに神経をとがらせている。
経済面でも協力進展の機運は乏しい。経済が減速する中国側は日本からの投資拡大を期待するが、不公正な経済慣行や邦人拘束の頻発など、中国進出企業を取り巻く環境は厳しい。日本人に対する短期ビザ免除措置の再開も見通せていない。
「現在は経済より体制引き締めを重視している」。日本政府関係者は習近平国家主席の姿勢についてこう分析する。
米国との対立を抱える中国は、米国の同盟国・友好国網にくさびを打ち込もうと対日関係の安定を一定程度重要視する。日本側は緊迫する台湾情勢をにらみ、安保上の観点からも中国との意思疎通は不可欠だとの立場。思惑の違いはあれど、対話の動機付けは存在する。
「習氏との直接対話以外に物事を動かす手はない」。こうした考えから岸田首相は11月にブラジルで開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の機会などに習氏との会談実現を図る方針だ。
[時事通信社]
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