USスチール買収、政争の具に=米大統領選で日鉄に逆風―実現は依然見通せず
【ニューヨーク、東京時事】米鉄鋼大手USスチールが米国時間12日に開いた臨時株主総会で、日本製鉄による買収案が承認された。関門の一つをクリアしたものの、今秋の米大統領選で労働組合の支持を期待するバイデン大統領とトランプ前大統領がそろって難色を示し、買収は「政争の具」と化している。買収実現は依然見通せず、日鉄に逆風が吹いている。
設備老朽化などで競争力が低下するUSスチールは昨年8月、身売りも含めた検討を開始。日鉄は12月、日本市場の縮小が続く一方で成長が見込める米市場を取り込む狙いから、USスチールを約2兆円で買収することを決めた。統合実現で両社の粗鋼生産規模は年間約5900万トンに上り、世界3位に浮上する。
大統領返り咲きを目指すトランプ氏は、買収に反発を強める労組の支援獲得を狙い、「即座に阻止する」と明言。バイデン氏も競うように買収に否定的な声明を発表した。さらに一部の連邦議会議員が国家安全保障を理由に、日鉄の中国事業に懸念を示すなど政治問題に発展している。
日鉄は全米鉄鋼労組(USW)に対し、現行の労働協約期間中は人員削減や工場閉鎖を行わない方針を伝えた。だが、USWは「空約束」と一蹴し、買収に反対姿勢を崩していない。一方、日鉄はUSWの合意を得ることが買収実現の鍵を握るとみており、対話を継続する。
米国内での反対論は、日米同盟や経済協力に水を差しかねない。バイデン氏は10日、日米首脳会談後の共同記者会見で「同盟関係にもコミット(約束)する」と日本側に一定の配慮も見せた。
現在、買収による安保上の問題がないかを調べる米政府組織の対米外国投資委員会(CFIUS)などが審査中で、日本政府は「法に基づき適正に手続きが進められる」(岸田文雄首相)と念を押す。ただ、米当局の審査が政治に左右されるリスクもくすぶっており、日鉄が今年9月までと見込む買収完了時期を見直すとの観測も浮上。先行きに不透明感が強まっている。
[時事通信社]
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