寺で弁当作り、よりどころに=「無傷の住民いない」―能登地震、石川・珠洲
能登半島地震で大きな被害を受けた石川県珠洲市の寺で、被災住民の有志が近隣やボランティアらのために弁当作りを始めた。不自由な生活が続く中でも会話は弾み、2次避難先から戻ってきた人も加わる。住職の妻、落合誓子さん(77)は「ここに無傷な人はいない。避難生活が長期化し誰もが疲れているけど、冗談を言いながら支え合っていけたら」と話す。
「ちょっとしょっぱいかな」「見た目がハイカラね」。飯田地区にある乗光寺宿坊で3月下旬、落合さんら住民5人を中心に、手製の炒め物や唐揚げなどを弁当に詰めた。調理の間も近所のスーパーの品ぞろえや、避難先での生活ぶりなどを話題に会話は途切れず、笑顔も見せる。この日作った弁当は70食。近隣には無償で配り、販売も行った。
寺は本堂が全壊するなどした。周辺は現在も1階がつぶれた民家が目立ち、夜は真っ暗だ。落合さんは「門徒も多くが避難し、珠洲にいる人を数える方が早い」と言う。一方、ボランティアや復旧活動に当たる作業員らは多い。そこで、「さまざまな人が集まれる場になれば」と住民に声を掛け、被害を免れた宿坊で約1カ月前に弁当作りを始めた。
初めて参加した幾田京子さん(77)は地元に戻ってきたばかり。富山市に2カ月間避難したが、慣れない生活で体調が悪化したという。「安全な場所に避難したつもりが、知らないうちにストレスがたまっていたのかも」と話す。
「少しは気が晴れるから、次も来て」。幾田さんにこう声を掛けた谷内礼子さん(73)は、自宅が倒壊して中学校に身を寄せる。避難中にはぐれた19歳の雌猫「チコ」が気がかりだという。「段ボールベッドでは寝返りがしづらく腰や背中が痛い」と言いつつも、「おいしかったと喜んでもらえたら」と調理に精を出していた。
[時事通信社]
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