カタールW杯から1年、大会が残したもの アラブ諸国に連帯感も
【ドーハAFP=時事】昨年のサッカーW杯カタール大会から1年。カタールの首都ドーハの道路脇には、大会スローガンが刻まれたW杯の広告看板が今も立っている。大会から時が過ぎ、灼熱(しゃくねつ)の太陽に容赦なくさらされたせいで、看板を彩るカタールのえび茶色も次第に色あせてきている。≪写真は、2022年サッカーW杯カタール大会が行われたルサイル・スタジアム≫
イスラム圏初のサッカーW杯として、多くのファンを集め、同時に激しい議論も呼んだ大会から12か月がたち、ドーハには平穏が戻っている。昨年は試合の映像を流す大型スクリーンとスピーカーが設置され、大勢が集まっていた海岸通りも、人の往来は以前と同じに戻り、弛緩した空気が漂っている。
W杯の組織委員会で運営部長を務めたジャシム・アルジャシム氏は、AFPの取材に対して、「W杯を超えるのは至難の業。それは確かだ」と話し、「去年の今頃は非常にぴりぴりしていた。しかし全体としては、みんなとても幸せだったし、国として成し遂げたことが非常に誇らしかった」と続けた。
カタールはW杯をめぐって批判の嵐にさらされた。招致プロセスでは贈収賄疑惑が取り沙汰され、その後も外国人労働者の扱いや男女平等、同性愛を認めない法律、アルコールの取り扱いなどが争点になった。
それでも一部の専門家は、こうした対立を通じてアラブ諸国内でのカタールのイメージが改善し、2034年W杯のサウジアラビア開催へ向けた道筋がついたと考えている。カタールに拠点を置く政治とスポーツの専門家は、「グローバルスポーツの中心は湾岸諸国へ移ってきている」と指摘し、濃厚となっているサウジ開催は「カタール大会の成功がなければ不可能だったかもしれない」との見解を示した。
■巨額の準備費用
国土の狭いカタールはW杯を境に生まれ変わった。新たに地下鉄が開通して空港は拡張し、道路改修やホテル建設が行われ、最先端のスタジアムも八つ用意された。大会へ向けた費用総額は2200億ドル(約32兆円)とされ、史上最も高額なW杯と言われているが、主催者はそうした主張を否定し、大会に向けたインフラ整備の大半は事前に予算化されていたとしている。
アルジャシム氏は「インフラ整備に投じられた2200億ドルには、間違いなくそれだけの価値があった。W杯のためだけにやったわけではない」とコメント。スタジアムのうち七つの合計費用は70億ドル(約1兆円)だと話した。
メイン会場となったルサイル・スタジアムなどは規模が縮小され、貨物用コンテナを使って造ったスタジアム974は、別の場所に移転予定となっている。ところが、カタール大会のセールスポイントでもあったこうしたプランは、アジアカップの開催国に決まったため棚上げになっている。
来年1月から2月のアジアカップはもともと中国開催のはずだったが、同国が権利を返上したためカタールが名乗りを上げた。アルジャシム氏は「今のところ、ルサイル・スタジアムはアジアカップの開会式と閉会式で使われる予定」とだけ説明し、アジアカップ後については詳しく語らなかった。アジアカップでは使わないスタジアム974の解体についても詳細は明かさず、近く発表があるとだけ話した。
■カタール批判が生むアラブ諸国の連帯
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは11月、雇用に関する法律の改正は進まず、労働者の権利侵害が続いているとカタールを非難した。
これに対してカタール政府の国際メディア局は、W杯をきっかけとして国内の労働改革は加速し、大会は「持続するレガシー」を残したと反論。アルジャシム氏も、W杯をめぐる批判は「われわれがW杯のような大会の主催者にふさわしくない」と考える人々による「カタールへの攻撃にすぎない」と一蹴した。
中東情勢に詳しい英ケンブリッジ大学のヒシャム・ヘリヤー氏は、そうした批判はカタールを標的とした攻撃とみなされ、中東地域におけるカタールのイメージや立ち位置を向上させていると指摘する。カタールがアラブ国、イスラム教国であることへの反対活動という枠組みで捉えられ、「世界中のアラブ人やムスリムがカタールのために団結するようになる」というのだ。
先述の政治とスポーツの専門家も、批判の影響でカタールの地域内での評価は高まり、2017年から2021年まで国交を断絶していた隣国サウジアラビアとの関係も改善していると話している。
「サウジアラビアがアルゼンチンを破った後、カタールの首長がサウジのスカーフを着けたり、誰もがモロッコを応援したりしているのを見れば、W杯のおかげで『汎アラブ主義』の再興とも呼べるものにつながったと思う」【翻訳編集AFPBBNews】
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