2023-12-08 16:57World eye

ユダヤ教ラビ、パレスチナ人保護に奮闘 ヨルダン川西岸で入植者の攻撃激化

【タイベ(パレスチナ自治区)AFP=時事】パレスチナ自治区ヨルダン川西岸にあるオリーブの林で、ユダヤ教のラビ(宗教指導者)のアリク・アッシャーマン氏(64)は、重い防弾チョッキを身に着けて猫背気味になりながら警戒に当たっていた。守っている相手は、オリーブの実を収穫しているパレスチナ人たちだ。西岸ではこのところ、パレスチナ人を標的にしたイスラエル人の入植者による攻撃が激化している。西岸の60%は、イスラエル軍が全権を持つ被占領地だ。≪写真は、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸ラマラ郊外でオリーブの実を収穫するパレスチナ人を手伝うユダヤ教のラビ〈宗教的指導者〉、アリク・アッシャーマン氏。米国出身のアッシャーマン氏はイスラエルの団体「人権活動に取り組むラビ」のメンバー≫
 イスラエルの団体、「人権活動に取り組むラビ」に所属するアッシャーマン氏は10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエルを越境攻撃したことについては、「弁明の余地はないし、説明も要らない。正当化することはできない」と非難した。
 一方で、ハマスの奇襲以降、イスラエル人入植者によるパレスチナ人攻撃が増加しているという報告に関しては、「今の一般的なイスラエル人には、パレスチナ人テロリストと、おびえているパレスチナ人とを区別する準備はできていないし、しようともしていない」と話した。
 タイベ村郊外で取材に応じたアッシャーマン氏は、「これは二つの民族の全面戦争だ」と指摘した。「(イスラエル人は)苦痛と怒りの感情から、今は誰もパレスチナ人を助けようとはしない」
 だが、「誰もいない」というのは誤りだった。すぐ近くには、数こそ少ないが、アッシャーマン氏に協力する人々が見張り役として立ち、パレスチナ人に嫌がらせをしに来る入植者がいないか目を光らせている。
 アッシャーマン氏は、西岸で入植者による暴力行為を阻止する活動を続けてきた。「こういう活動を始めて28年以上になる。自分が少数派だと思ったことはほとんどなかった」と言う。
 「これまでは、私たちの活動に理解を示してくれるイスラエル人が一定数いた。積極的とは言えないにしても」
 「それが、今ではすっかりいなくなった。支持はほぼ得られない」と話した。
 ■恐怖が倍増
 イスラエルの人権団体「ベツェレム」は、ハマスとイスラエル軍の衝突以降、暴力的な入植者がパレスチナ人コミュニティーを襲撃する事件が増加しているとし、「入植者は軍服を着用し、政府が支給する武器を使用している」と報告している。
 国連も、入植者による事件の半数近くで「イスラエル軍が同行するか、積極的に襲撃を支援していた」と発表した。
 軍側は、「非番の兵士が関わっている」疑いがあるとし、調査に乗り出したと主張している。
 近隣のデュラカリア村で、家族でオリーブ栽培をするパレスチナ人のサミール・アベダルカリームさん(63)は、「10月7日以降、入植者への恐怖が倍増した」と話す。
 「入植者とイスラエル軍から発砲されるため、自分たちの土地に近づくこともできなくなった」
 西岸の黄土色の土地に広がるオリーブ畑は、パレスチナの農業従事者と、入植活動を進めるイスラエル人との間で、過去数十年にわたり衝突の舞台となってきた。
 パレスチナ人にとって、厳しい環境でも数百年生きられるオリーブの木は、この場所に定住した自分たちの象徴だ。現在、西岸には推定1000万本のオリーブの木が植わっている。
 アベダルカリームさんの妻は、「これまで、オリーブの収穫時期は祭りのようだったが、今は違う」と言う。自分たちの生活はオリーブなしには始まらないとして、「オリーブは私たちにとって、とても大切な物。オリーブがないと生きてはいけない」と話した。
 ■新たな戦線
 西岸の主要都市ラマラに拠点を置くパレスチナ自治政府保健省によれば、10月7日以降、西岸で入植者の襲撃や軍の攻撃によって死亡したパレスチナ人は、戦闘員を含め、180人を超えている。
 「人権活動に取り組むラビ」のメンバーで、パレスチナの被占領地を担当するダニ・ブロドスキー氏は「私たちから見ると、入植者が新たな戦線を開こうとしているとしか思えない」と話した。取材時、同氏は入植者の襲撃に備えて、ラクロス用のグローブを着用していた。
 アッシャーマン氏は、西岸に暮らすパレスチナ人の窮状を説明するために、旧約聖書の一文を引き合いに出した。神がソドムの罪深い住民に罰を与えるために町を滅ぼす判断を下し、イスラエル民族の始祖であるアブラハムが抗議した時の言葉だ。
 「あなたは、正しい者を悪い者と一緒に滅ぼされるのですか」【翻訳編集AFPBBNews】

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