勢い欠く「対中包囲網」=「実利」なきルール形成困難
【サンフランシスコ時事】アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に伴い開かれた一連の会合では、米国が目指す対中包囲網形成の難しさが浮き彫りとなった。日米など14カ国が参加する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の交渉はデータ流通などを含む貿易分野で、目標とした実質合意が見送られた。域内で影響力を強める中国への対立軸の構築は勢いを欠き、日米とも中国との対話の重要性も確認した。
IPEFは環太平洋連携協定(TPP)を離脱した米国がインド太平洋地域で影響力を強める中国に対抗しようと、2022年5月にバイデン米大統領が立ち上げを発表した。ただ、従来の経済連携協定(EPA)交渉などで厳しい折衝が繰り広げられてきた関税の撤廃や削減など市場開放は、当初から交渉対象外。このため、国際経済の専門家は「『あんこ』のないあんパンみたいなものだ」と効果に疑問を投げ掛けていた。
先送りとなった貿易分野は、米国が労働や環境への配慮などで高い水準を求めたが、米国市場開放による輸出拡大という「実利」がない新興・途上国にとっては、条件をのむ動機に乏しい。さらにデジタル貿易では交渉を主導する米国自体が、巨大IT企業に有利になるとの国内の懸念を反映して合意形成への勢いを失ったとされる。
一方、IPEFの首脳声明では、重要鉱物の供給網強化に向け対話の枠組みを設けることを表明。日米間では半導体などの重要物資のサプライチェーン(供給網)強化に向け、作業部会を設置することでも合意した。
サンフランシスコを舞台にした一連の会合では、供給網途絶といった現実味を増す危機への対処では一定の合意形成ができても、公正な経済秩序の構築に向けた高水準のルールづくりでは難しいことが露呈した形だ。
IPEFに参加する東南アジアの多くの国にとって最大の貿易相手国は中国という現実もあり、米国陣営か中国陣営かの二者択一を迫られるような枠組みは避けたいという事情もある。
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