遠い北極、なぜ観測?=厳冬、豪雨、大気汚染…日本に影響―温暖化の「カナリア」・研究者・第3部「未来が見える場所」(2)「66°33’N=北極が教えるみらい」
日本から北極点まで約6000キロも離れた地域の研究をなぜ行うのか。海洋研究開発機構の北極環境変動総合研究センター(IACE)の菊地隆センター長は「一つは、北極の環境変化が日本の気象にも影響するからだ」と説明。北極では地球温暖化の影響がほかの地域に先駆けて現れているとして、「いつか日本で起きることを知るのは、日本人にとって無関係ではない」と強調する。
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◇温暖化なのに厳冬
北極に関する研究で大きなインパクトがあったのは、北極海での海氷減少が日本に厳冬をもたらすという成果だ。温暖化の影響が北極圏で顕著に現れ始めた2000年ごろ、夏の海氷面積の最小記録更新が続いたが、海洋機構の研究者らは記録更新後の冬は日本で寒波や豪雪が多いことに気付き「なにか関係があるのでは」と調べ始めた。
12年の論文では、気象データの解析などから北欧3国などに面する北極圏のバレンツ海で海氷が少ない冬は、低気圧が平年より北寄りに進み、シベリア高気圧が拡大することを解明。強い寒気が形成され、日本に寒波や豪雪をもたらしていることが分かった。菊地さんは「温暖化により雪が増えるという一見矛盾した話だが、国際的にも話題になった」と振り返る。
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◇夏の豪雨、大気汚染も
気圧配置の変化は、梅雨期の豪雨とも関係している。北海道大の佐藤友徳准教授らの研究では、温暖化によりシベリア東部に長期間居座る「ブロッキング高気圧」の出現頻度が増加。南側の日本周辺では低気圧が発達し、降水量が増えることが分かった。災害関連死を含め67人が死亡した20年7月の熊本豪雨にも影響した可能性があるという。
影響はこれだけにとどまらない。北海道大の安成哲平准教授らは、14年7月に札幌市などで注意喚起された微小粒子状物質PM2.5の濃度上昇について、発生源となったシベリアの森林火災を調査。気温上昇により融雪が早まって乾燥した状態が長く続くと、森林火災増加につながることを突き止めた。安成准教授らは今年、疫学や経済学の研究者らと、温暖化がさらに進んで、火災が増えた場合のシミュレーションも実施。日本や中国で呼吸器疾患による死者数が増加し、数百億ドル規模の経済損失が生じることなども示した。
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◇温暖化のカナリア
東京大大気海洋研究所の堀正岳・特任研究員は「北極は人も住んでいないし、なかなか船も通れない。温暖化の影響が現れているはずなのに、その情報を取り出し切れていない」と指摘。「北極はほんの少し先の未来を見せてくれる『温暖化のカナリア』だ」とした上で、「見せてもらった未来は、手遅れになる前に、捉えなければいけない」と訴えた。
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▽ニュースワード「北極温暖化増幅」
北極温暖化増幅 温暖化による気温上昇幅が、北極域では地球全体の3~4倍に達する現象。北極海の海面は、太陽光をよく反射する白い海氷に覆われているが、気温が上昇して氷が解けると、海面が露出する。海水は反射率が低く、熱を保つため、夏に温められると冬の海氷成長も遅れる。翌年の夏はさらに海氷が減少する悪循環が生じ、温暖化が一層促進される。
[時事通信社]
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