「裏金」推薦、自民とタッグ=初挑戦の公明代表、批判鳴り潜め―衆院埼玉14区ルポ【注目区を行く】
衆院小選挙区定数の「10増10減」に伴い新たに区割りされた埼玉14区。東京や千葉と接する県南東部のこの地に、公明党は地縁の薄い代表の石井啓一を立てた。負けられない戦いで頼りにするのは自民党。協力を得るため、地盤を持つ派閥裏金事件の関係前議員を推薦し、事件に絡む批判は口にしない。(敬称略)
◇消えた改革の訴え
「厳しい戦いだが、私が負けるわけにはいかない」。公示が間近に迫る13日の昼下がり、石井は東武伊勢崎線・草加駅前で「自公統一候補」として支持を訴えた。隣には首相(自民総裁)の石破茂。手を取り合い、拳を突き上げ、ロータリーを囲む両党の支持者に結束をアピールした。
「クリーンな政治」は公明の原点だ。裏金事件では政治資金規正法改正の要求を強めた。石井自身、9月下旬の代表就任直後は地元でも「政治改革をリードする」と訴えていた。
だが、13日の演説で石井はこの問題に触れなかった。これに先立つ事務所開きや国政報告会でも「政治とカネ」に関する発言は控えた。いずれの場にも、自民系の地元有力者や業界団体関係者が顔をそろえていた。
◇ぎくしゃく
石井は東京都豊島区の出身。1993年に旧東京5区で政治キャリアをスタートさせ、以後、比例代表東京ブロックと北関東ブロックで当選を重ねた。今回が初の小選挙区挑戦。しかも、事実上の「落下傘候補」だ。
公明は2023年3月に石井擁立を決めた。その頃、「10増10減」に伴う候補者調整を巡り自公関係は悪化し、東京では選挙協力を一時解消する事態に発展。「信頼関係は地に落ちた」と言い切った当時幹事長の石井は、ぎくしゃくぶりの象徴となった。
自民県連は当初、14区で独自候補にこだわった。同党関係者は「党員の中にはわだかまりが残っている」と明かす。
前回21年の衆院選比例代表で自公の14区内の得票は約9万。野党陣営の合計を1万票余り下回った。「自公の結束が勝利の最低条件だ」。自民県議はこう語る。
◇ウィンウィン
公明は9日、裏金事件に絡んで自民に公認されず、埼玉13区に無所属で立つことになった旧安倍派の前職三ツ林裕巳に推薦を出した。三ツ林のもともとの選挙区には、石井の新たな戦いの舞台となった三郷市と八潮市が含まれる。
公明は当初、非公認候補は推薦しない方向だった。転換の理由として「公明支持者への謝罪や説明」があったなどと説明したが、両市に組織票を持つ三ツ林サイドに「見返り」を期待しているのは明らかだ。実際、自民関係者は「三ツ林の後押しが必要な石井、逆風で公明推薦がありがたい三ツ林。2人はウィンウィンだ」と解説する。
ライバルとなる日本維新の会の新人加来武宜、国民民主党の前職鈴木義弘は政権批判票の受け皿になるべく保守層にも狙いを定める。加来は22年参院選の埼玉選挙区で次点。鈴木には自民県議時代に培った三郷市の地盤がある。
石井の戦術は、「クリーン」の看板と矛盾すると批判されるリスクをはらむ。だが、関係者の一人は「選挙ではなりふり構っていられない」と本音をこぼした。
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◇衆院埼玉14区立候補者
加来 武宜 43 弁護士 維 新
石井 啓一 66 党代表 公 前(10)
推(自)
関根 和也 44 団体役員 無 新
鈴木 義弘 61 党幹事長代理 国 前(3)
高橋 易資 68 元会社員 諸 新
苗村 京子 65 元三郷市議 共 新
(注)敬称略、届け出順。年齢は投開票日(27日)時点、丸数字は当選回数、「推」は推薦。維=日本維新の会、公=公明党、自=自民党、無=無所属、国=国民民主党、諸=諸派、共=共産党。
[時事通信社]
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