心と向き合った3年=バイルス、周囲に感謝―体操〔五輪〕
体操女子個人総合決勝。女王を追い詰めたレベカ・アンドラデ選手(ブラジル)さえ、うっとりした表情で拍手を送った。それほど、シモーン・バイルス選手(米国)が演じた最後のゆかはすごみがあった。
冒頭の「後方抱え込み2回宙返り3回ひねり」(バイルス2)は驚くほどの高さがあり、どよめきで会場の空気が揺れた。その後も最高峰の跳躍技に成功。直前の平均台を終えて首位にいたバイルス選手の勝利を疑う者は誰一人いなかっただろう。得点と順位が表示され、再び会場が揺れた。
「この3年間、世界の舞台に戻るため闘ってきたことに誇りを感じる」。苦しんだ道のりが詰まった言葉だった。2016年リオデジャネイロ五輪で4冠を成し遂げ、金メダル量産が期待された21年東京五輪は団体総合決勝の1種目目を終えてまさかの棄権。理由はけがではない。空中感覚を失う、イップスのような症状だった。米国は3連覇を逃し、罪悪感にさいなまれた。
そこから2年ほど休養し、専門家による心のケアを受けて昨年復帰した。波瀾(はらん)万丈の競技人生は多くの人の心に響き、今大会はテニス女子で活躍したセリーナ・ウィリアムズさんや開会式に登場した歌手のレディー・ガガさんら世界的スターが観戦。この日はバスケットボール男子のレブロン・ジェームズ選手(レーカーズ)やサッカー元フランス代表のジネディーヌ・ジダンさんが見守った。
競技前の朝7時。バイルス選手は米国のセラピストと連絡を取っていた。「この数日間、私のメンタルを整えてくれた」。復活劇の陰には、今でも周囲の支えがある。
2大会ぶりの金メダルが決まった後、テレビカメラにヤギ形のネックレスを示した。英語でヤギを意味するGOATは、「史上最高」の頭文字を取ったスラング。「自分が史上最高の一人と言われることは信じられない。私はただ、宙返りが大好きなテキサス州出身のシモーン」。バイルス選手だけが言える軽口だった。 (時事)
[時事通信社]
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