最低賃金上げ、中小経営に重し=持続へ価格転嫁と生産性カギ
2024年度の最低賃金の引き上げ目安額が50円に決まった。上昇率は16年度以降、コロナ禍の20年度を除いて3%台が続き、物価高の中で家計の助けになりそうだ。ただ、中小企業にとっては人件費の負担増が重くのしかかる。引き上げ原資の確保には一段の価格転嫁や生産性向上が不可欠で、大企業や政府の後押しも必要だ。
中小企業庁が今春実施した調査では、コスト上昇分をすべて価格転嫁できたと回答した企業は全体の2割弱。全くできなかったとする企業が2割に上るなど価格転嫁が十分とは言えない。こうした状況下での最低賃金引き上げによるコスト増は、価格交渉力が弱い零細企業にとり死活問題だ。
厚生労働省の調査によると、従業員30人未満の企業では、最低賃金の改正後、賃金が改正額を下回る労働者の割合を示す「影響率」が23年に21.6%と、約10年前の3倍に上昇した。これは最低賃金ぎりぎりの給与しか支払っていない企業が増えている可能性を示す。
日本総合研究所の山田久客員研究員は「企業の支払い能力の負荷が大きくなり、倒産や失業といった副作用の出やすい局面に入っている」と指摘。人材維持のための防衛的賃上げを迫られる企業も多く、「商工会などを中心に地域全体で価格転嫁の実効性を高めていくべきだ」と訴える。
最低賃金上昇が人手不足を引き起こす事態も生じている。安さが売りの東京都墨田区のスーパー。店長の50歳代男性は、公営住宅で暮らす従業員には「年収が上がると家賃が上がるため就業調整をする人も多い」と指摘し、人手不足を心配する。
内閣府によると、最低賃金の影響を受けやすいパートタイムの時給は過去30年で約4割増加したが、年収の伸びは1割超にとどまっている。税負担などを避けるため一定の年収を超えないよう勤務時間を抑える「年収の壁」で、労働時間が約2割減少したためとみられる。
政府は30年代半ばまでのできるだけ早い時期に最低賃金を1500円とする目標を掲げている。年収の壁対策で従業員の手取りが減らないよう賃上げに取り組む企業に助成金を支給する制度を整備したが、弥縫(びほう)策に過ぎず、抜本的な対応が求められる。
[時事通信社]
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