不安の中、網を上げる=能登の19歳新米漁師―珠洲
能登半島地震で大きな被害を受けた石川県珠洲市に今春高校を卒業したばかりの新米漁師がいる。同市蛸島漁港で定置網漁を営む漁業会社「小泊十六号定置網」に勤める前咲斗さん(19)。地震により生活環境が一変した中、能登の若人が懸命に漁へ出ている。
前さんは、漁師だった祖父に憧れ、水産を学べる県立能登高校へ進学。昨秋、職業体験先の同社に就職を決めた。「能登の海が好き。のんびりした地元で生きていく」。地震は新たな一歩を踏み出そうとしていた矢先に起きた。
母と2人で暮らしてきた自宅アパートは無事だったが、安全のため日中は避難所へ行き、夜は家に帰る日々が2月下旬まで続いた。漁港も岸壁が崩れるなどの被害が出たが、同社の網と船は奇跡的に無事で、1月下旬には漁を再開。前さんも4月から船に乗り始めた。
現在、漁協が港内に建てた仮設住宅で暮らす。部屋は4畳ほどで、トイレと風呂は技能実習生たちが住む近くの寮で借りる。深夜に出漁し、早朝に帰宅する生活に慣れてきた。しかし、6月に再び震度5強の地震に襲われた。道路の隆起や倒壊した家屋が残る街を見て、いまだ復興が進まぬ現状に、一抹の不安を抱く。
それでも、職場で優しい先輩に囲まれてありがたいとはにかむ。特にインドネシア人実習生のアリフさん(24)は入社当初からロープの巻き方や船上での動きなどを丁寧に教えてくれた。言葉の壁はあるが、年齢も近く、母国の料理を振る舞う兄貴分は心の支えになっている。「とにかく一日一日を一生懸命過ごしていく」。能登の海で、きょうも精いっぱい網を上げる。
[時事通信社]
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