移民国家、重大な岐路に=浸透する「強制送還」論―大幅制限なら経済損失も・米大統領選
「米国は移民国家だ」。バイデン大統領がこう指摘するように、建国以来、世界各地から流入する移民は労働力を提供し、米経済を支えてきた。ただ、コロナ禍の収束以降、南部のメキシコ国境には大量の難民申請者が押し寄せ、不法越境者も急増。移民問題は11月の大統領選の重要争点に浮上している。厳しい制限を志向する共和党のトランプ前大統領が返り咲けば、経済的影響を含め、移民国家は重大な岐路を迎えそうだ。
◇「強制送還しかない」
6月初め、米東部から南部を縦断するアパラチア山脈の麓、バージニア州リンチバーグの教会で行われた共和党の選挙集会。同党保守派の論客、ランド・ポール上院議員が「われわれの国境の問題を解決しない限り、(ロシアの侵攻を受ける)ウクライナの国境でも、何もするべきではない」と訴えると、大きな拍手と歓声が湧き起こった。
リンチバーグは南部国境から遠く離れている。しかし、地元の女性団体幹部、テレサ・プレグナルさんは「何よりも最大の懸案は国境の治安だ」と断言。越境者への対応で「税金が無駄遣いされている」と憤った。
米税関・国境警備局によると、2023年度の南部国境の越境者数は約250万人。コロナ禍前の19年度の2.5倍だ。集会に参加した畜産農家のラス・シンプソンさんは、越境者急増を「自分の家に勝手に入られるようなものだ」と懸念。解決策は「強制送還だ」と言い切った。
不安が広がる中、トランプ氏は「就任1日目に史上最大の強制送還を始める」と公言する。米国民生活調査センターが今年5月末に公表した調査結果によると、不法移民の強制送還への支持は50%で、反対(46%)を上回った。トランプ氏が初当選した16年時点では、支持は32%にとどまっていた。人権軽視と受け取られかねない強硬な「トランプ流」は、保守的な有権者を中心に浸透しつつある。
◇1920年代に逆戻りか
だが、移民は既に米労働市場で大きなウエートを占めている。労働省によると、労働人口に占める外国出身者の割合は23年に18.6%と、過去最高を更新した。調査会社オックスフォード・エコノミクスは、トランプ氏の大統領就任で、移民の純流入が想定の年間約110万人から半分程度に抑制されれば、労働力減少により、米国の潜在成長率は0.2ポイント押し下げられると試算する。
米サザンメソジスト大のジェームズ・ホリフィールド教授(国際政治経済学)は、移民制限による「経済的な影響は明白だ」と強調。移民を敵視するトランプ氏が当選すれば、日本などアジアからの移民を事実上排除する法律が成立した「1920年代のような状況になる」とした上で、「歴史上の重大な局面にある」と警鐘を鳴らす。
「われわれは分断されており、非常に悲しい」。ドミニカ共和国出身で、米東部メリーランド州議会議員のジョサリーヌ・ペーニャメルニクさんはこう嘆き、「みんな移民だ。チャンスを求める人は敬意を持って扱われるべきだ」と訴えた。
[時事通信社]
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