2024-08-15 13:34

五輪は「社会可視化ツール」=遺産はつくるよりつなぐ―社会学の常見陽平准教授に聞く

常見陽平 千葉商科大学准教授(本人提供)
常見陽平 千葉商科大学准教授(本人提供)
 時代とともに五輪は変化する。11日に閉幕したパリ五輪もまた、現代社会の縮図となった。世代論に詳しい千葉商科大の常見陽平准教授(50)=労働社会学=は「五輪は社会を可視化するツール。いいも悪いも、社会の事象が多く詰まっていた」とみる。
 ◇世間の課題象徴
 そもそもが巨大な国際大会。世界中から多様な人々と文化、価値観が集まる。単一の世界選手権と比べ、「五輪は単なる大会ではない。メッセージ性が強い」と言う。
 そのため問題も多い。男性として生まれたトランスジェンダーと誤解されたボクシングの女子選手は、SNSで攻撃された。常見さんは「誹謗(ひぼう)中傷は論外。さらに、こうした問題の理解や認識が世間で進んでいないことを浮き彫りにした」と指摘する。
 こうした功罪の根っこにあるのはSNSだ。メリットもあり、日本時間の深夜から未明に競技のある海外開催の今大会は、感情共有の一助となった。選手も食事事情などを発信。娯楽として「モデル変化の過渡期。前提がテレビではなく、SNSになった」と言う。
 ◇つなぐ「遺産」
 花の都が持つ魅力を生かした運営は、新時代の手法と言える。セーヌ川で開会式、エッフェル塔やベルサイユ宮殿を背景にメダルを争う。「自由の女神の前で戦うテレビゲームや漫画のように、あり得ない光景が広がっていた」とうなる。
 世界的な名所をはじめ、既存施設の利用でパリを発信。街並みはそのままに、改修や美化が進んだ面もある。「資源を生かして最高の舞台を用意した。レガシー(遺産)はつくるより、つなぐ、生かす、守ることが大切と感じた」と評価した。
 日本勢の活況には目を見張る。経済が疲弊する中、フェンシングは本場欧州でメダル5個の活躍。92年ぶり表彰台の総合馬術団体「初老ジャパン」や、14歳の吉沢恋(ACT SB STORE)らスケートボード勢の躍進には「世代を問わず、極めて痛快だろう」と読む。
 国際情勢は緊迫し、イスラエルにはブーイングが飛んだ。片や中国と台湾の両選手が抱き合うシーンも。多様な事柄が複雑に絡み合う中、「みんな仲良くするだけじゃ『平和の祭典』ではないのだろう。あんな事案が起きた、こんな考えがあるという問題提起も、平和を守るためのすべになると感じた」と話す。
 「楽しさと社会を照らす力がスポーツにある」と常見さん。感動も騒ぎも含め、五輪が生む熱気に意義がある。