2024-08-09 12:52

「誰もが安心できる環境を」=元フェンシング選手、杉山文野さん―リレーコラム〔五輪〕

杉山文野さん
杉山文野さん
 私がフェンシング選手として現役引退する2006年までは、LGBTQ(性的少数者)に関する情報は皆無に近く、「男性らしくありたい」と思うと競技者としての人生はなかったし、「競技者としていたい」と思うと自分らしくいられなかった。
 当時はこの二つを両立することは考えられず、逃げるようにスポーツ界を去って引退した私からすると、自分自身を発信できる時代になってきたことは非常に感慨深い。
 強い者が評価されるというスポーツの世界では、LGBTQのアスリートは弱い立場で、「居場所がない」と感じる現状がある。
 今回のパリ五輪に出場するアスリートのうち、世界各国の191人(7月17日時点)の選手がカミングアウトしている。カミングアウトはしなければいけないことではないが、「言うことができる」という安心の元で「言わない」のと、「ばれたらどうなるか」という不安の中で「言えない」のとは全く違う。
 「心理的安全性」という言葉があるが、不安がある限りは自分のパフォーマンスを発揮することはできない。安心感を高めることで競技にも集中でき、結果にもつながる。
 日本のオリンピアンのカミングアウトはまだゼロだが、言っても言わなくても安心して競技に打ち込める社会にしていかなければならない。
 スポーツというのは強い発信力がある。これをしっかり生かしていくことは重要だ。スポーツ界にもあるさまざまな課題に対して、スポーツ界がしっかり向き合うことが社会を変える原動力になる。
 そうすればスポーツ界も含め社会全体として、LGBTQの人もそうではない人も誰もが安全安心に暮らせる社会の実現につながると感じる。
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 杉山 文野さん(すぎやま・ふみの)フェンシング元日本女子代表。出生時の性別と性自認が異なるトランスジェンダーであることを公表し、LGBTQの啓発活動に携わる。日本オリンピック委員会(JOC)理事。東京都出身。42歳。