2021-07-28 20:35

無名少女、抱き続けた夢=「いつか日の丸付けて」―五輪「金」・柔道新井選手〔五輪〕

 柔道女子70キロ級、新井千鶴選手(27)=三井住友海上=が初出場の五輪で激闘を制し、金メダルに輝いた。「日の丸を付けて柔道の試合をしてみたい」。かつて実績もなく、無名だった少女は夢をひそかに抱き続けていた。
 「チイちゃんもやりたい」と兄に続いて柔道を始めた。小中学校時代の9年間指導した男衾柔道クラブ(埼玉県)の笠原則夫さん(60)は「徐々に強くなった子」と語る。児玉高校(同)時代の恩師、柏又洋邦監督(54)も「コツコツコツコツ頑張れるのが一番の魅力」と言う。
 高校入学時は線が細く、中学までの実績は関東大会3位が最高。高2まで全国の舞台に立ったことはなかったが、「日の丸の柔道着で試合がしたいです」と恥ずかしそうに言ったのを、柏又さんは覚えている。「大学受験か就職か何気なく聞いたつもりでした。冗談かと思って後日また聞いたら『言いましたよね』と怒られました」と笑う。
 「しっかり組んで奇麗な形で技に入るので、動きの速い軽い階級だと相手のペースで試合が終わってしまうこともあった」と柏又さん。高3は63キロ級から70キロ級に上げ、努力の成果も感じ始めた。
 「すぐそこに来ていると思うよ」。笠原さんも教え子に声を掛けたことがある。関東大会止まりとはいえ、負けた相手は全国優勝した。振り返れば中学時代に一本負けはない。接戦ばかりだった。
 遠からずブレークする―。笠原さんと柏又さんの共通認識は、高校総体で現実になった。東日本大震災の影響で中止になった高校選抜でのエネルギーを爆発させ、関東大会を突破。勢いに乗って初出場の全国大会を駆け上がり、優勝した。
 「負けていたら大学に進み、教諭の道に進もうかなと思っていた」と話す新井選手。前回五輪出場は逃したが、翌年から世界選手権を2連覇した。集大成の東京五輪で頂点に上り詰めた。