2021-07-14 13:59

後手と先送りの末に=根拠ない「安心、安全」で離れた世論―五輪、迷走の8年(7)・完

 東京五輪の延期から約半年が過ぎて首相が交代した昨秋、ある大会関係者が「日本の政府が欲しいのは実績。2021年に東京で五輪をやったというファクトだけ」と嘆息した。国際オリンピック委員会(IOC)も腹の底は同じだった。
 東京がだめなら、半年後の北京冬季五輪も危うい。IOCは放映権料を2大会続けて失うわけにはいかず、準備が後手に回る日本側への介入を強めた。昨年11月にチャーター機で来日したバッハ会長は政府に開催をだめ押ししたとされる。
 延期の追加経費は簡素化で300億円を削っても2940億円に膨れた。確たる収支が見通せなくても、関係者は「赤字が出たって国が出す」と言い切った。懸案のコロナ対策は遅々として進まず、感染も収まらない中で、IOCは開催の前提にしないはずだったワクチン接種に言及し始めた。
 5月にIOCが米ファイザー社などと選手団へのワクチン提供で合意した。しびれを切らしたようなこの動きは、接種が進まない国内で五輪優先との反発を招いた。コーツ調整委員長は大会で感染が広がった場合の責任は日本にあるとし、緊急事態宣言下でも開催すると言った。会長や最古参委員も放言で国内世論を逆なでしたが、日本側は黙した。
 ある五輪関係者は「IOCとけんかする人がいない。ずっと言いなり」と憤ったが、政府とIOCは開催ありきで思惑が一致していた。大会組織委員会は失言で会長が代わっても政府、IOCに物を申さず、幹部は「下請けだから」と言っていた。
 政府も組織委も、大会時の感染状況を見通すのは難しいと言い続けた。最悪を含む複数の状況を想定して備えるのが危機管理の要諦なのに、そうしなかった。組織委が参加者向けに示したコロナ対策の規則集も、政府の水際対策も穴が少なくない。観客数の判断は開幕直前まで先送りし、ほぼ無観客としながら関係者を別枠として反感を買った。
 根拠のない「安心、安全」を繰り返し聞かされて、世論は五輪から離れていった。「どう転んでも立派な大会にはならない」。決められないリーダーたちに振り回されながら、最後まで準備に力を尽くした組織委の職員がつぶやいた。