2021-07-12 07:20

IOC、有無言わせぬ会場変更=札幌でマラソン、競歩実施へ―五輪、迷走の8年(5)

 国際オリンピック委員会(IOC)がその気になれば、開催都市の意向や関係者の尽力など問答無用にひっくり返される。その現実を知らしめたのが、マラソン・競歩会場の札幌移転だった。
 東京の暑さを懸念した突然の会場変更は2019年10月16日に表面化。大会まで残り9カ月に迫った時点での「合意なき決定」(小池百合子東京都知事)はIOCへの不信感を生み、大会準備に携わってきた人々には無力感をもたらした。
 直前に酷暑のドーハで開催された陸上の世界選手権が直接の引き金になった。気温30度超、湿度70%超の過酷な条件で開催された女子マラソンなどの種目で棄権者が続出。東京で同様の状況になることを恐れたIOCが、日本側に札幌への移転を迫った。
 秋に注目度が高まる米国のスポーツ日程と放送局の事情から、開催時期が真夏に限られる五輪。招致時に日本側が「(東京の)この時期は晴れる日が多く温暖で、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候」と記した立候補ファイルにそもそも無理があったが、IOCは支持。関係者は東京の猛暑を前提に準備を進めた。
 熱を遮断する素材で道路が舗装され、スタート時間を早朝に前倒しにすることを決定。結果的に放送用照明の確保などが困難で断念したものの、深夜の競技実施の可能性も探った。
 競技団体や選手も同様だった。日本陸連は暑さに強い選手を代表に選ぼうと、本番の条件に近いレースを設定して選考。選手や指導者、スタッフは何年もかけて暑さ対策に取り組んできただけに、突然の会場変更に国内外の困惑の声は少なくなかった。
 以前から東京の気候を知りながら、大会直前になって「選手の安全確保が第一」を変更の理由に挙げたIOC。出入り口の狭い札幌ドームをマラソンの発着点に提案するなど場当たり的で、世界陸連内部との調整が済んでいなかったという証言もある。盾とした「アスリートファースト」の向こう側に、「ドーハの悲劇」に焦り、批判の矛先が自らに向けられるリスクを回避しようとする姿が透けて見えた。