2021-07-09 07:21

「国民不在」で白紙撤回=15年の新国立、エンブレム問題―五輪、迷走の8年(2)

 「あれで相当、五輪反対論が高まったからね」と大会関係者は振り返る。東京大会開催決定から2年後の2015年。主会場の新国立競技場の整備計画と、大会エンブレムのデザインが立て続けに白紙撤回された。
 新国立は国、エンブレムは大会組織委員会と計画を担った当事者は異なる。だが、不透明な手続きで進め、反発の声の大きさを見誤り、後手に回って撤回に追い込まれる混乱の図式は二つの問題に共通していた。
 当初1300億円とされた新国立の総工費は、招致決定後に3000億円に膨らむ恐れがあることが判明。事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は1625億円とする設計案に変更したものの、施工業者の見積もりとは1000億円以上の乖離(かいり)があった。
 予定していた開閉式遮音装置(屋根)整備を先送りするなどして、新たに総工費を2520億円として見切り発車しようとしたが、甘い見通しに批判が集中。安倍晋三首相(当時)がゼロベースでの見直しを宣言するに至った。
 計画の検証委員会は文部科学省やJSCによる意思決定システムやプロジェクト管理に問題があったとするとともに、「国民への説明を十分に果たさなかった」と報告書に記した。
 透明性や丁寧な合意形成を欠く選定は、エンブレムでも顕在化した。当初発表されたデザインがベルギーの劇場ロゴと酷似しているとの見方が拡大。組織委の森喜朗会長(当時)は「絶対の自信がある」と盗用はないとの認識を強調したが、結局は国民の理解を得られなくなったことを理由に撤回を表明した。
 開かれた公募との建前を掲げながら、実際の審査では8人のデザイナーを無条件で通過させていた不正も後に発覚した。
 外部有識者による調査報告書では旧エンブレム選考について「公正さを軽視し、コンプライアンスに目をつぶる。現代の組織委には全くそぐわない」と厳しく指摘。「今回の問題に現れた最も大きな瑕疵(かし)は、国民の存在をないがしろにしてしまったところ」とも述べた。新国立にもあった「国民不在」の状況は、その後の大会準備でも問われた。