2022-02-10 07:14

渡部暁、目指した「登ったことのない山」=5度目の五輪、新たな心境〔五輪・ノルディック複合〕

 ノルディックスキー複合の日本のエース、渡部暁斗選手(北野建設)。長く世界の第一線で戦ってきて、最近考え方が変わったところがある。「登ったことのない山に行ってみたい。五輪金メダルという目的地にたどり着いて、そこからの景色を見てみたい」
 2017〜18年シーズンにワールドカップ(W杯)総合優勝という快挙を達成したが、競技をよく知る関係者にしかその価値が伝わらないと感じた。W杯王者こそが世界一だと信じていたが、異なる頂点を知りたいと五輪制覇を一番の目標に据えた。日本選手が成し遂げたことのない複合個人種目での優勝だ。
 昨年1月下旬にW杯通算19勝目を挙げ、大先輩の荻原健司さんが持つ日本勢の最多記録に並んだ。このシーズンは後半に何度も表彰台に上がり、結果を出せず自信を失った前シーズンの記憶は振り払った。「改善へ挑戦する意欲も取り戻した」
 33歳となり、体力的な衰えを感じないわけではない。しかし技術に関しては「競技人生で一番高いレベルにある」と言い切る。16年に始めたピラティスなどで「自分の体を知る」ことを追求し、現在は上下動と左右の重心移行をうまくできるようになっている。経験に裏打ちされたレース勘もあるから、後半距離で高いレベルを保てている。
 だが、ジャンプの不調が想定外だった。今季は安定しない助走に悩み、過去4回の五輪前と比べて「一番苦しいと思う」。初出場のトリノ、バンクーバーの両大会は実力不足だったと言い、連続銀メダルのソチ、平昌は良い状態で臨めた。今回は実力は備えた上で、不調の中で大舞台を迎えた。現地入りしてからも状態は「最悪」で、公式練習では1回ずつ異なるやり方を試して調整した。しかし、この日は会心のジャンプを披露できずに7位。金メダルは遠かった。
 20年11月に長男が誕生して考え方が大きく変わり、「いつ(競技を)やめてもいい」と思うようになった。スキーを究めるという意欲は保ちながら、「自分のために100%時間を使って向き合うのは最後」とも言う。来季以降は家族との時間を取りつつW杯で結果を出すという新たな挑戦も考えている。
 新境地で挑んだ5度目の大舞台。15日のラージヒルで、改めて頂点を目指す。