2021-02-09 07:30

アスリートは果敢、リーダー及び腰=森会長の問題発言に―「悲しい」「誰のため?」

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が女性蔑視と受け取れる発言をし、国内外で波紋が広がっている。女子選手を中心にアスリートが果敢に批判を展開する一方、日本のスポーツ界を引っ張るリーダーは及び腰になっている。
 森氏は日本オリンピック委員会(JOC)会合で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言し、自身が率いる組織委の女性理事については「わきまえておられる」と述べた。
 テニス女子で四大大会3勝の大坂なおみ(日清食品)は「少し無知。立場のある人は発言する前に考えなければ」と話した。自らが昨年、黒人犠牲者の名前が入ったマスクを着けてコートで人種差別反対の意思を示しただけに説得力がある。
 陸上女子100メートル障害日本記録保持者でママアスリートの寺田明日香(パソナグループ)は「今回の五輪は多様性がメイン。代表の方がそういう発言をして、私たち選手や五輪がそういうふうに見られるのが悲しい」と語り、「フラットな方がリーダーに就いてもらえれば」と直言した。ロンドン五輪競泳女子平泳ぎメダリストの鈴木聡美(ミキハウス)も「かなり残念。怒りも正直あった」と率直な思いを口にした。
 また、森氏は自民党本部での会合で、医療体制が逼迫(ひっぱく)する状況にもかかわらず「新型コロナウイルスがどういう形だろうと必ずやる」と述べた。この強行開催の姿勢に対し、寺田は「五輪について、お金や政治的な動きが優先されているのではないかと思われてしまうのが悲しい」と話した。
 陸上女子走り幅跳びの中野瞳(和食山口)は「どんな状況でも何が何でも開催する、というのには違和感がある。誰のため?何のため?」と投稿サイト「note(ノート)」につづり、「歓迎される形でオリンピックが開催されることに希望は持ちたい。それが厳しいのであれば無理に開催する必要はない。してほしくない」と続けた。
 森氏はJOCの会合で「五輪は日本のアスリートのため。やらせてやるしかない」とも発言した。パラ競泳女子の辻内彩野(三菱商事)は「やりたいに決まってる。でもこの状況では不安と危機感しかない」とツイッターでつぶやいた。
 陸上女子1万メートル日本記録保持者の新谷仁美(積水化学)を指導する横田真人氏は「note」に「僕らが求めているのは、失言ではなく論理的な説明。『スポーツの民主化』が必要だ」とつづった。
 元オリンピアンのスポーツ界トップは歯切れが悪い。JOCの山下泰裕会長は森氏の問題発言から2日後に取材に応じ、発言自体は不適切だったとした上で「(会長職を)最後まで全うしていただきたい」と擁護した。室伏広治スポーツ庁長官は「ジェンダー平等は重要」とのコメントのみを発表し、森氏の発言には直接言及しなかった。