中国に入る全選手に訪れる最初の試練は、チーム内のメンバー争いでも予選でもない。新型コロナウイルスの検査を受け、「陰性」判定を受けるか否か。北京の空港に到着すると、すぐに細長い綿棒で鼻や喉をつつかれ、陽性ならば隔離が待っている。渡航前の検査で陽性判定となり、中国に入れなかった選手もいた。
　長年の努力が実り、母国を代表して夢の舞台で輝く権利を得ながら、検査結果ですべてが無となった事例が既にある。中国のゼロコロナ政策もあり、感染予防を最優先につくられた厳格な規定。大会を主催する国際オリンピック委員会（ＩＯＣ）のバッハ会長は「同情する」と言ったが、欠場を強いられた選手を救うすべはない。
　１年延期で行われた夏の東京五輪同様、世界中のほとんどが画面越しに見守る大会。主役は新型コロナの影響で、以前より多くの困難を強いられてきた選手たちだ。ある国のアルペンスキー選手は、感染対策でゲレンデのリフトが止まり、自力で山を登って練習を続けた。年末年始も欧州の遠征先から帰国せず、愛する家族に会えないまま北京に乗り込んだ日本選手も。そんな逆境にめげず、スタッフらに支えられながら、誰もが歩みを止めなかった。
　日本選手団の主将を務めるスピードスケートの高木美帆選手は言う。「東京五輪の選手たちの活躍には、同じアスリートとして多くの刺激を受けた。今回は冬季競技の活躍で、日本中へ勇気と明るさを届ける」
　コロナ禍でどんよりした空気に包まれた世界に向けて、昨夏の東京大会は選手の喜怒哀楽を届けた。その半年後に中国で行われるスポーツの祭典。米国などの外交ボイコットにつながった中国の人権問題など、感染リスク以外にも憂慮すべき点は多い。それでも闘うアスリートは集まった。「スポーツの力」を示す雪と氷の舞台。真剣勝負の１７日間が始まった。