2021-02-05 09:02

森会長発言、東京五輪にさらなる逆風=菅首相、危機感の薄さあらわ

 「女性蔑視」などと批判を招く東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の発言は、4日の衆院予算委員会でも取り上げられた。菅義偉首相は「あってはならない発言だ」と述べ、不適切だったとの認識を示したが、事態収拾に積極姿勢を示したとは言い難い。日本の対外イメージ悪化にもつながりかねず、新型コロナウイルスの感染拡大で中止論が強まる東京五輪に一段の逆風となりそうだ。
 「発言内容の詳細は承知していない」。衆院予算委で、森氏発言への見解を問われた首相はまず、こう答弁。野党席に「えーっ」とやじが広がると、「スポーツ分野でも女性の社会参画は極めて大事だ」と続けたが、危機感の薄さは隠しようがない。立憲民主党の枝野幸男代表は「女性差別という言葉では足りないような発言だ」と厳しく非難、森会長の辞任を求めたが、首相は進退への言及を避けた。
 首相がようやく「あってはならない発言だ」と認めたのは、枝野氏の後に質問に立った立憲の菊田真紀子氏が、橋本聖子五輪担当相に森氏の発言の経緯を説明させ、「逃げ道」をふさいだ後だ。
 発言は海外メディアに「性差別的」などと批判的に報じられ、野党からは「愚かな女性蔑視発言」(共産党の志位和夫委員長)と森氏への辞任要求が噴出した。しかし、政府高官は「組織委は政府の外にある組織だ」と静観の構えだ。
 背景には、森氏が首相経験者で、かつて会長を務めた自民党最大派閥の細田派に依然強い影響力を持つことがあるようだ。首相官邸の幹部は「森会長に誰か物が言えますか」と及び腰だ。
 加藤勝信官房長官は記者会見で、「まずは橋本五輪担当相のところで適切に対応すると思う」と橋本氏にげたを預けた。その橋本氏は予算委で、森氏への辞任勧告を迫られ、「東京大会が世界の皆さんに理解され、歓迎されるべく努力をしていくと会長にもお伝えしたい」と遠慮がちに答えた。橋本氏自身、細田派の所属で、森氏に対して厳しい態度には出られそうにない。 
 世界的なコロナ禍の中、7月23日開幕予定の東京五輪について、報道各社の世論調査で8割前後が中止や再延期を求めており、開催を危ぶむ声は日に日に強まっている。森氏の発言に、自民党中堅議員は「女性アスリート不参加などの運動が起きてもおかしくない」と危機感をあらわにした。
 首相は先の施政方針演説で「女性が輝く社会」実現を目指すと高らかに宣言した。しかし、森氏の発言を真っ先に否定すべき局面で明確なメッセージを打ち出せなかった。かねて指摘されてきた首相の発信力の弱さも手伝って、五輪の先行きに暗雲が垂れ込めてきた。