2021-09-20 07:27

テレビ五輪から見えたもの=無観客の東京の先―オリパラを問う

 新型コロナウイルス禍でほぼ無観客だった東京五輪はマラソンなど路上競技が行われるたび、大会組織委員会が「自宅で観戦を」と自粛を促した。テレビのための五輪。巨額の放映権料が強行開催の一因だったと考えれば皮肉というほかない。
 開催可否に揺れた頃、ある五輪関係者は国際オリンピック委員会(IOC)の腹の内を「ともかく大会をやってもらえればいい」と言っていた。ほぼ無観客でも、収入の7割超を占め、競技団体などへの分配原資となる放映権料は守られた。
 画面の中の五輪。IOCの内情に詳しいローザンヌ大(スイス)のジャン・ルー・シャプレ名誉教授は「観客がさほど重要でないことが分かってしまった」と話す。五輪開催にあたっては今後、大規模な会場の不要論が出る可能性にも言及した。
 国際競技団体(IF)はIOCによる格付け評価の対象として観客数を意識し、会場の規模縮小には抵抗してきた。シャプレ教授が言うように五輪が「テレビショー」になれば、実施競技であり続けるためにIFが取る戦略も変わってくる。
 観客数を絞ればチケット収入にも影響が及ぶ。ほぼ無観客で異例だった東京大会は、組織委が想定した900億円がほぼ消えた。五輪開催のハードルを下げるために小規模な施設の利用を進めるとしても、運営予算の財源確保という課題は残る。
 米NBCテレビは東京五輪中継の広告販売が好調で利益は上がるとしたが、米メディアによると、夏季では独占放映を開始した1988年ソウル五輪以降で視聴者数は最低に。広告主との補償交渉も報じられた。IOCは五輪期間中、視聴に関する前向きな統計を並べ、東京五輪を「ストリーミング・ゲームズ」と名付けた。ネット視聴の新たな時代だと訴えたが、シャプレ教授は「テレビ放映権の付属であり断片。直接の利益を生み出してはいない」と論じた。
 東京五輪でのNBCの視聴低迷には、日本との時差なども影響したとされる。シャプレ教授は「五輪は(テレビの番組として)まだ他をリードしている」としつつ、中国などによる五輪市場の拡大も踏まえ、放映権ビジネスの潮目が変わるとすればNBCの契約が切れる2032年だと読む。