2021-08-08 23:35

「パラレルワールド」に穴=コロナ対策、後付けも〔五輪〕

 強行開催に突き進んだ東京五輪が問われたのは新型コロナウイルス対策だった。大会中に運営側がその正しさを自賛すればするほど、穴が目に付いた。規則集プレーブックには不備が多く、何かが起きるたびに、後付けで行間が埋められた。
 大会前にはサッカーの南アフリカ代表に複数の陽性者が出て、濃厚接触者も多く、日本戦開催が危ぶまれた。濃厚接触者は競技6時間前のPCR検査陰性で出場でき、陽性でも6日間の隔離などを経て復帰。いずれもプレーブックに記載はない。
 大会中盤にアーティスティックスイミングのギリシャ代表6人が陽性となり、大会組織委員会が「クラスター」と認めた。陰性の残り6人の中には濃厚接触者もいたが、ほどなく帰国。デュエット予選に出場した経緯や、「航空会社が搭乗を認めれば帰国できる」との説明も判然としなかった。
 国際オリンピック委員会(IOC)と組織委は定例会見で連日、検査数と低い陽性率のデータを示した。「世界中で最も検査が行われているコミュニティー」と強調する一方で、選手や関係者の検体提出率は明かさない。
 プレーブックには行動制限に違反した際の罰則も明記されている。それなのに組織委は大会途中に懲罰ではない独自の「厳しい注意喚起」を設けた。明文化せず運用していることへの説明を求めると、担当者は「さまつなことだ」と答えた。
 表彰式でのマスク外し容認もIOCは一夜で判断を変えた。路上競技で沿道に多くの人が集まっても、組織委はお願いを繰り返すだけだった。
 組織委発表の陽性確認は閉会式までの39日間で430人だった。選手村や会場の「バブル」に出入りした国内在住の大会関係者の陽性も少なくないのに、IOCの広報部長は「パラレルワールド(別の世界)に住んでいる」と言い放った。
 五輪開催と国内の感染急拡大については日本政府と東京都のトップが関連を否定し、組織委も同調した。IOCのバッハ会長は「間接的な影響を裏付ける数字を把握していない」として、直接の影響も含めてはねつけた。五輪の内側から聞こえてきた言葉は空虚で、外側には響かなかった。