◆「田舎で静かにしとる年寄りより、東京から打てばいいのに」。６月中に２回の新型コロナワクチン接種を済ませた母の言だ。自分が打てたことにはもちろん感謝していたが、毎日数千人の感染が出る東京で電車通勤する筆者らを心配してくれている。
◆ワクチンの供給量は限られており、リスクが高い入院・施設入居中の高齢者に最優先で接種されるのは当然だ。しかしその後は、感染の可能性が高い場所、年代から接種していくべきだったのではないか。大都市部、特に五輪を控えていた東京圏の、動き回る現役世代だ。だが、実際は逆で、国は人口密度の低い地方を含め広く薄く全国を、高齢者からカバーすることを選んだ。より若い世代でも、地方の方がすぐ打てるという話をちょくちょく聞く。
◆もし、ワクチンを大都市から選択と集中で配分し、東京圏に大規模接種センターをあと何カ所か作ったり職域接種の間口（現在は１０００人以上）を広げるなどして、現役世代に集中的に接種していたら。五輪開幕までに２回の接種を完了し、（１、２週して）抗体もできた人が人口の数割に達していたら―。巨額の費用を掛けたスタジアムを無観客にしたり、開催中に感染爆発を起こして国民と各国選手に不安を与えたりしなくて済んだかもしれない。
◆東京ばかりひいきだという声は出ただろう。だが、五輪は国策でもあり、緊急事態下でも開催した日本の対応は国際的に物議をかもした。五輪を抜きにしても、経済規模や人口で東京圏は突出しており、ここの感染をまずつぶすことは、医療的にも経済的にも利点が大きかったはずだ。平等は平時にはいいが、緊急時の今、政治的な選択と集中が欲しかった。（Ｔ）