2021-08-02 07:27

金メダリストはモン族系=逆境はねのけ初の快挙―米体操女子スニーサ・リー

 東南アジアの少数民族「モン族」にルーツを持ち、体操女子個人総合で優勝した米国代表のスニーサ・リー選手(18)。自身の故障や身内の不幸などが重なり、逆境と重圧の中で東京五輪を迎えたが、モン族系として初の金メダルの栄光を手にし、「移民の国」に興奮をもたらした。
 「まるで夢のよう。まだぴんときていないもの」。リー選手は7月29日の記者会見で金メダル獲得の感想を語った。家族に起きた不幸などで「ここ2年は大変だった」と振り返り、「やり切った自分を誇りに思う」と述べ、両親やコーチへの感謝を口にした。
 モン族は中国南部やベトナム、ラオスなどで暮らす少数民族。米メディアによれば、リー選手の両親はそれぞれ1970〜80年代に家族と共にラオスから米国に移り住んだ。現在、モン族系の人々はカリフォルニア州やミネソタ州、ウィスコンシン州を中心に30万人を超えるという。
 ラオスでは75年に社会主義政権が誕生し、迫害を恐れた人々が数多く国外に脱出した。リー選手の祖父は75年に終結を迎えるベトナム戦争で、共産主義勢力と敵対していた米軍に協力。ラオス新政権下の弾圧を懸念し、米国への移住に踏み切ったとみられる。
 リー選手の父ジョンさんは「モン族が厳しい生活をくぐり抜けてきたことを理解している人は少ない」と語る。移民として米国でたくましく生きるモン族は、クリント・イーストウッド監督の映画「グラン・トリノ」(2008年)で取り上げられた。最近では新型コロナウイルスの感染拡大で、アジア系住民への嫌がらせや暴力などのヘイトクライム(憎悪犯罪)も増えている。
 親子の二人三脚で歩んできたが、ジョンさんは19年、はしごから転落して下半身不随に。リー選手も足を骨折したほか、新型コロナ感染で親族を亡くすなど、「(体操を)やめようと思うこともあった」と苦しかった日々を振り返る。
 さらに、リオデジャネイロ五輪4冠を達成したチームメートのシモーン・バイルス選手が精神面への負担回避を理由に欠場を表明。メダルへの期待や重圧がリー選手に一気にのし掛かったが、「自分のために頑張るんだ。楽しめ」という父の言葉を胸に逆境をはねのけた。
 出身地であるミネソタ州セントポールの近郊では家族や友人が大勢集まり、金メダルが決まると大歓声を上げ、喜びを爆発させた。リー選手はメダル獲得後のインタビューで「モン族の人には夢がかなうことを知ってほしい。決して諦めないで」と訴えている。