アサド政権の化学兵器攻撃「偽証強いられた」 シリア医療関係者
【ドゥーマ(シリア)AFP=時事】シリアの首都ダマスカス郊外のドゥーマで2018年4月7日にあった化学兵器攻撃をめぐり、同国人医師2人と看護師1人がAFPのインタビューに応じ、国際調査官による事後の聞き取りの際に虚偽の証言をするようアサド政権当局から強要されていたと明かした。≪写真はシリアの首都ダマスカス郊外のドゥーマで2018年4月7日にあった化学兵器攻撃をめぐり、AFPのインタビューに応じた整形外科医のムハンマド・ハナシュさん≫
攻撃について化学兵器禁止機関(OPCW、本部オランダ・ハーグ)は昨年1月、政府軍が実行し、43人が死亡したと結論付けた。
攻撃後、反政府勢力が支配するドゥーマの野戦病院で負傷者の治療に当たったという3人は、後日にダマスカスの治安機関本部に呼び出されたとAFPに述べた。
そのうちの一人、整形外科医のムハンマド・ハナシュさんは「ダマスカスの家族の居場所を知っていると言われた」と話した。
救急・集中治療専門医のハッサン・オユーンさんは「調査担当者を訪れた時、彼の銃はテーブルの上に置かれ、私の方に向けられていた」と話した。
「すぐに何を求められているかを理解した」と言い、化学兵器攻撃はなかったと言わせるのが目的だったと、振り返った。
救急対応要員・看護師として働いていたムワファク・ニスリンさんは、「他の大多数の医療関係者の家族同様、私の家族もドゥーマに住んでいたため、圧力を受けた」と語った。
攻撃の対象となったのは、3人が働いていた野戦病院近くの建物で、負傷者が搬送されてきた。
その際の混乱ぶりを捉えた動画が、オンラインですぐに出回った。動画には、負傷者の治療に当たる医療従事者や、負傷者に水をかける男性の様子が映っていた。負傷者の中には子どももいた。
アサド政権はその画像を「偽物」だとし、動画に登場した関係者を治安部隊が尋問した。AFPのインタビューに応じた3人も対象となった。
当時の攻撃についてOPCWは、シリア空軍の少なくとも1機のヘリが有毒ガス入りの円筒容器をドゥーマに投下したことを示す「合理的な根拠」があるとし、政府軍による攻撃だったと結論付けた。
一方のアサド政権とロシアは、攻撃が米国の指示により救助隊員が演出したものだったと主張した。
この後、米国、英国とフランスがシリア空爆を実施した。
■編集された尋問動画
ハナシュさんは言う。「病院にいた医師団は治安機関本部を訪れた。尋問では、できるだけあいまいな返答をしようと試みた」
「例えばその日(攻撃のあった日)、何が起きたか聞かれた。私は手術室にいたと答えた」とし、手術室には化学兵器攻撃の被害者は運ばれてはこないと考えられるためと付け加えた。
オユーンさんは「当時病院にいた全員が強い圧力を受け、ほとんどあからさまな脅迫に直面していた」と語った。
「起きたことを否定し、『死者をどこに運んだのか』といった特定の質問には答えないようにした」
犠牲者が窒息した原因については、「戦闘に伴う粉じんや煙」のせいにしようとしたと説明した。
激痛に見舞われている少女を助けようとする姿が動画に捉えられていたニスリンさんは、当局から「化学兵器攻撃はなかったと言われた」と話した。当局は、「ドゥーマに新たなページが開かれるよう、この話はおしまいにしたがっていた」という。
OPCWは、「トラ部隊」として知られる政権の「エリート」部隊がドゥーマ奪還に向けた軍事作戦中に攻撃を仕掛け、イスラム主義の反政府勢力は翌日、撤退に同意したとしている。
3人は最初の聞き取りの後、OPCWと並行して活動していた調査委員会の証人として、カメラの前で回答を繰り返すよう言われた。
映像は「編集され、(当局の)見解に合うよう削除されたり文脈から離れて使われたりしている部分もあった」と、ハナシュさんは語った。映像は翌日、テレビで放映されたという。
3人は、転覆を望んでいた政権のために、偽証させられたことに気づいた。
■喜びも「不完全」
2018年4月14日、3人はOPCWの調査団により、ダマスカスのホテルでインタビューを受けることになったと告げられた。
だが、録音機器をポケットに入れて臨むか、携帯電話で録音するよう命じられたため、真実を語る希望は打ち砕かれた。ハナシュさんは「彼ら(当局)が望むような話を繰り返すよう強制された」と言う。
OPCWは昨年、「さまざまな可能性を示すシナリオを検討」した結果、「シリア空軍が攻撃の実行者」であり、シリアでは20の事例で化学兵器が実際に使用されたか、使用された可能性があると結論付けた。
ハナシュさんは「自分たちの証言が調査過程に影響を与えなかったことはよかった」と話す。
しかし、攻撃の実行者が罰せられるまで「喜びは完全なものとはならない」と付け加えた。【翻訳編集AFPBBNews】
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