井上尚弥の「8カウント」=衝撃ダウンに神髄詰まる―ボクシング
2024年のスポーツ界は、パリ五輪・パラリンピックの熱狂や米大リーグ、ドジャースの大谷翔平の活躍などに彩られた。注目や関心を集めた出来事の背景やその後に光を当てた。
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その瞬間、モンスターはリングに右膝をついて正面をにらんでいた。プロボクシングのスーパーバンタム級で世界主要4団体統一王者の井上尚弥(31)=大橋=が、5月6日の東京ドームで喫した自身初経験のダウン。刻まれた8カウントの中に、このボクサーの神髄が詰まっていた。
試合開始のゴングが鳴り、1分40秒。左アッパーから右フックを狙った際、ルイス・ネリ(メキシコ)の左フックを顔面に浴びた。「死角から入ってきた。角度調整のミス」。左に半回転して左半身からうつぶせになる姿に会場は凍り付いた。
よもやのダウン。井上尚は素早く体を起こし、片膝を立てた。「8カウントまで膝をついて休む数秒が大事だと、日頃から考えていた」。ダメージ確認や状況分析も脳内で同時進行。立ち上がるまでの8秒間、万一に備えてきたイメージトレーニングを完璧に遂行した。
東京ドームでのボクシング開催は34年ぶりという歴史的興行。「気負いや硬さがあった」と苦笑いする表情には人間味があった。結局ダウンを3度奪い、6回TKO勝ちする姿はやはり怪物。大橋秀行会長は「人間はすぐ立とうとして、ふらつく。ダウンしたことがないのに、ぎりぎりまで膝を立てた」と感服した。
未体験の領域だった。試合後は珍しく興奮し、「皆さん、1ラウンド目のサプライズ、たまにはいかがでしょうか」と叫んだ。全勝街道を歩んで約12年。世界から注目を浴びるからこそ、思うことがある。「ダウンシーンがSNSで流れていてやめてほしい。ダウンの仕方もダサいし」。ちゃめっ気たっぷりに笑う絶対王者の地位は、まだまだ揺るぎそうにない。
[時事通信社]
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