2024-11-08 20:47社会

生身の人間超える人形美=文楽のヒロインあでやかに―吉田簑助さん

取材中に「曽根崎心中」の一場面を再現する吉田簑助さん(右)と桐竹勘十郎さん=2007年1月、大阪市の国立文楽劇場

 戦前の文楽を記録した入江泰吉や土門拳の写真の中に少年時代の吉田簑助さんを舞台裏で捉えたカットが残っている。子ども用に作ってもらった黒衣を着て、人形が好きでたまらない様子が見て取れる。楽屋周りが遊び場だった幼い日から80年以上、一筋に文楽を愛し、人形の表現を追求し続けた。
 文楽の人形遣いは3人で一つの人形を操り、一人前になるまでには長い修業を要する。「人形遣いは女形、立役(男性の役)、いろんなものをぎょうさん遣わんといかん」と、「仮名手本忠臣蔵」の大星由良助や「義経千本桜」の権太など立役も手掛けたが、女形で本領を発揮した。
 「冥途の飛脚」の梅川、「本朝廿四孝」の八重垣姫、「妹背山婦女庭訓」のお三輪など、清らかで情熱を秘めた多彩なヒロインが、簑助さんの繊細で柔らかな表現によってあでやかな色気を発散、生身の人間を超える美しさで舞台に息づいた。戦後の文楽をけん引した先代の吉田玉男さん(2006年死去)との名コンビで何度も遣った「曽根崎心中」のお初では、「人形を遣っていることを忘れ、私自身がお初に成り切っていました」とその境地を語っている。
 脳出血で倒れた時、「足遣いでもいい。舞台に戻りたいという一心」でリハビリに取り組んだ。言葉は少し不自由になったが、元来、人形は物を言わぬもの。積み上げた芸の力で、簑助さんが遣う人形はなお美しく、そして雄弁だった。 
[時事通信社]

「彦山権現誓助剣」のお園の人形を手に取材を受ける吉田簑助さん=2010年1月、大阪市の国立文楽劇場

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