エスカレーター歩かないで=転倒防止、障害者配慮も―推進団体「思いやりある社会に」
エスカレーターの正しい利用法を浸透させる取り組みが広がっている。埼玉県と名古屋市が立ち止まることを条例で義務付けたほか、福岡市は歩行防止策の実証実験を進めている。立ち止まることは本人の転倒防止だけでなく、身体が不自由な人への配慮にもつながるといい、推進団体は「思いやりのある社会になって」と訴える。
エスカレーターでは、片側に並び片側を歩く風景がよく見られる。ただ製造を手がける日立ビルシステム(東京都千代田区)によると、エスカレーターはそもそも歩くことが想定されていない。段差は建築基準法が定める通常の階段より段差が大きく設計されており、歩行は転倒の恐れがある。
さらに東京都理学療法士協会(渋谷区)によると、脳卒中などでまひが残る人が利用する際、左右どちらかの手すりしかつかめない場合がある。つえを使う高齢者の中にはバランスが取りにくいため、隣を歩かれると怖く感じる人もいるという。
協会は「わけあってこちら側で止まっています」と記したキーホルダーを作り、約8000個を配布。担当者は「どんな人でも安心安全に利用できる思いやりのある社会になってほしい」と願う。
取り組みは行政でも進む。埼玉県では2021年10月、名古屋市では23年10月に立ち止まることを義務付ける条例がそれぞれ施行された。罰則はないが、同市が今夏に行った調査では立ち止まる人の割合は過去最高の93.3%に上がった。
福岡市は、市営地下鉄のエスカレーターで立ち止まってもらうための有効策を公募。人工知能(AI)を活用し、歩いている乗客に注意を促す音声をスピーカーから流す事業を想定する。実証実験を進めており、来年度から導入予定という。
エスカレーターの利用法に詳しい文京学院大(東京)の新田都志子名誉教授は、移動を急ぐ人には階段利用を推奨する。その上で「善意と思って片側を空ける必要はない。利用者の安全や輸送効率を高めるためには、両側に立ち止まって乗ることが重要だ」と話している。
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