事故責任問われた「かみそり」=原発の有用性訴え―勝俣恒久元東電会長
死去した元東京電力(現東京電力ホールディングス)会長の勝俣恒久氏は、「かみそり」の異名を持つ切れ者で、電力業界を代表する辣腕(らつわん)経営者だった。二酸化炭素(CO2)の排出量削減につながるなどとして、原発の有用性を訴えてきたが、2011年の東電福島第1原発事故を巡る対応には批判が集中。損害賠償を求める株主代表訴訟を起こされるなど、晩年は事故の責任を問われ続けた。
家族も名門企業で活躍していたことから「勝俣3兄弟」と呼ばれ、産業界では有名な存在だった。東電の中枢である企画畑などを歩み、社長に就任したのは02年10月。東電のトラブル隠しが発覚し、原発への不信が高まった時期に当たる。当時の経営陣が辞任に追い込まれ、勝俣氏に白羽の矢が立った。
就任時の会見では、「信頼回復の第一歩はすべてのうみを出し切ることから始まる」と立て直しに意欲を表明。地元との調整に奔走し、停止した原発の再稼働を進めた。07年の新潟県中越沖地震で、震源に近い柏崎刈羽原発(新潟県)が再び停止を余儀なくされても、原発を重視する考えは揺るがなかった。
08年に会長に退いた後も強い影響力を持ち続けたが、福島第1原発事故後は立場が一転。事故処理などについて政府との調整に当たった際は、東電の旧体制の象徴とされた。1兆円の政府出資と実質国有化が決まる12年の株主総会では議長を務め、民間企業としての東電に「終止符」を打つ役目を負った。
事故時に福島第2原発の所長だった日本原燃の増田尚宏社長は31日、青森市内で開いた記者会見で「あの混乱の中で勝俣さんは支えになるありがたい存在だった」と振り返った。
勝俣氏が経営トップだった当時、東電は17基の原発を保有していたが、現在は7基に減少。事故を起こした東電への不信は根強く、再稼働の見通しは立たないままとなっている。
[時事通信社]
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