2024-10-08 21:14

袴田さん、無罪確定へ=検察控訴断念、異例の談話も―逮捕から58年・静岡地裁再審

 1966年に静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審で、検察当局は8日、静岡地裁の無罪判決に対して控訴を断念すると表明した。逮捕から58年、死刑確定から44年近くを経て袴田さんの無罪が確定する。
 静岡地検は9日に上訴権放棄の手続きを取る方針を明らかにした。戦後に起きた事件で死刑確定後に再審無罪となるのは5例目。
 畝本直美検事総長は8日、談話を発表し、「袴田さんは相当な長期間にわたって法的地位が不安定な状況に置かれてしまい、検察として申し訳なく思っている」などと謝罪。再審請求審が長期間に及んだことなどについて、最高検として検証を行う方針を明らかにした。控訴断念で総長が談話を出すのは異例。
 再審では、事件の約1年2カ月後に現場近くのみそタンクで発見された血の付いた「5点の衣類」が犯行着衣かどうかが最大の争点だった。先月26日の判決は、赤みが残る血痕について「1年以上みそ漬けにされたら赤みは残らない」と判断。「捜査機関が血痕を付けるなどしてタンク内に隠した」と証拠の捏造(ねつぞう)を認め、袴田さんが犯人とは認められないと結論付けた。
 これに対し畝本総長は談話で、血痕の赤みについて「専門性のない科学者の一見解に依拠し、赤みを失うと断定したことには大きな疑念を抱かざるを得ない」と反論。証拠捏造に関しても「具体的な証拠や根拠が示されておらず、強い不満を抱かざるを得ない」とした上で、「判決には到底承服できず、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容だ」と指摘した。
 一方で、「再審請求審の判断がまちまちになったことなどによって袴田さんの法的地位が長期間不安定だったことに思いを致し、控訴することは相当ではないとの判断に至った」とした。 
 袴田さんを巡っては静岡地裁が2014年、再審開始を認めるとともに釈放を決定。18年に東京高裁が開始決定を取り消したが、これを最高裁が取り消して審理を差し戻した。同高裁が23年、再審開始を認め、検察側は特別抗告を断念した。

 
 ◇袴田さんを巡る経緯
1966年 6月 みそ製造会社専務一家4人が刺殺、放火される
      8月 静岡県警が袴田巌さんを逮捕。容疑を否認
      9月 袴田さんが犯行を「自白」。起訴
     11月 静岡地裁での初公判で無罪主張
  67年 8月 工場タンクから血の付いた「5点の衣類」を発見
      9月 検察側、犯行着衣を5点の衣類に変更
  68年 9月 地裁で死刑判決
  80年11月 最高裁が上告棄却。死刑が確定する
  81年 4月 第1次再審請求
  94年 8月 地裁が再審請求棄却
2008年 3月 最高裁が特別抗告棄却
      4月 DNA型鑑定やみそ漬け実験を新証拠に第2次再審請求
  14年 3月 地裁が再審開始決定、袴田さんを釈放
  18年 6月 東京高裁、再審開始を取り消す決定
  20年12月 最高裁、高裁決定を取り消し審理を差し戻す
  23年 3月 高裁が再審開始を認める決定。検察側は特別抗告を断念
     10月 静岡地裁で再審初公判
  24年 5月 検察側が死刑求刑
      9月 袴田さんに無罪判決
     10月 検察が控訴断念を発表

 
 ◇死刑確定後に再審無罪となった事件
事件名       発生年    再審無罪となった年
免田       1948         1983
財田川        50           84
島田         54           89
松山         55           84
[時事通信社]

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