共存か否か、揺れ動く心=ハマス襲撃受けたイスラエル住民―「隣人」ガザのパレスチナ人と・ガザ衝突1年
パレスチナ自治区ガザの境界から東に約5キロに位置するイスラエル南部のキブツ(集団農場)ベエリ。イスラム組織ハマスは昨年10月7日の早朝、この集落を襲って住民ら約130人を殺害し、30人をガザに連れ去った。「隣人」であるガザのパレスチナ人と共存すべきか否か。ベエリに暮らしていた人々の心は揺れ動いている。
◇破壊されたままの家
イスラエル政府の案内で記者は9月23日、ベエリを訪れた。色鮮やかな花が咲く美しい町並みだが、垣根越しに見える家屋は破壊されていた。中に足を踏み入れると、放火された部屋はすすで真っ黒だ。住民が逃げ込んだ部屋の壁には無数の弾痕が残っており、鳥のさえずりをかき消して、銃声や悲鳴が聞こえてくるような気がした。
イスラエル軍の調査結果によると、ハマスの戦闘員約340人がベエリを襲撃。軍は対応が遅れ「住民を守る任務を果たせなかった」と結論付けた。ベエリの復興は進まず、ほとんどの住民が別の場所で生活している。
案内してくれたダニ・マイズネルさん(63)はその朝、自転車をこいでいるとガザから発射されたロケット弾が空一面を覆ったのを鮮明に覚えている。キブツの入り口に戦闘員が見え、急いで自宅に戻った。身を隠している間に、近所に住む姉は殺害された。
ある家の前でマイズネルさんは立ち止まった。そこにはガザ住民の支援に長年携わりながら襲撃で殺害された平和活動家ビビアン・シルバーさんが暮らしていた。「なぜ彼女は殺されなければならなかったのか」。ベエリには、パレスチナ人との共存を目指す人々が多く住んでいた。マイズネルさんもその一人だったが、「彼らの隣にはもう住めない」と深いため息をついた。今ではパレスチナに批判的な政治思想に傾いたという。
◇かつては友情
父を殺害されたドタン・ナベさん(35)は、それでも共存を進めるべきだと語る。かつては父の農場でガザの農民が働き、友情もあった。ガザとイスラエル双方が「平和」について学び直し、信頼を積み上げていけると信じているが、「ガザの人々が怖い」という気持ちもある。イスラエルでは恐怖心が広がり、平和について語れる状況にないと述べた。
「復讐(ふくしゅう)心などない」。ユバル・ハランさん(37)はそう語った。当時遠方にいたハランさんに「愛している」とメッセージを残して父は殺害された。拉致された姉やおいたちは解放されたが、義理の兄タールさんは今もガザで拘束されている。怒りや悲しみが渦巻くが、行き着くのは「義兄を帰してほしい」という一点だ。昨年10月7日から「時が止まったまま」というハランさんは拉致から間もなく1年となる中、「人質の存在が忘れられている」との思いを強めている。
[時事通信社]
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